毒素感傷文

院生生活とか、読書の感想とかその他とか

100冊読破7周目(51-60)

1.母親になって後悔してる(オルナ・ドーナト)

streptococcus.hatenablog.com

他のブログ記事にも書きましたが、センセーショナルなタイトル(とそれについて回る複雑な書評)に釣られてほしいものリストに入れました。ありがたいことにご恵贈いただいたので手に取った次第です。

内容は別記事に書き記したので割愛するとして、「おすすめ10選」に入れるかどうか悩むところです。なかなか万人におすすめとはいかないのかもしれません。

 

2.3.〆切本

 

様々な文豪その他が独白し、自己嫌悪に陥り、「こうなったら書けるのにィ…」みたいな話をしています。昭和の文壇が多くの対象になっているので、当時の娯楽が雑誌・新聞であったことがよくわかる内容でもあります。現在はテレビやYoutube、ネットに取って代わられたような娯楽を背負っている側面もあったわけです。それに反発する「純文学」もありますが、そうした純文学は一朝一夕にはできないのであくまで大衆文学として「売文屋」に身を落とす...という構図があるのがわかって興味深いですね。

編集の待機に怯える。言い訳の電話をする。言い訳がきかなくなる。さらにはホテルに缶詰めになる。缶詰めにされたホテルから逃げる。

本業のみならずTLのオタクたちの同人活動とかにも多大に刺さるものがありそう(刺すな)。

昭和だけの話でもないので、途中に現在東大教授の松尾先生のお遊び研究『なぜ私たちはいつも締め切りに追われるのか』も〆切本2の方に掲載されています。pdfでも無料で読めるので是非お楽しみください。真面目な形式なのかと思いきや中身が完全にネタなので、論文という形式に慣れない方にもお楽しみいただけるかと思います。ちなみに私はこの数式を検証する能力がないので、妥当かどうかどなたか教えてください。


なぜ私たちはいつも締め切りに追われるのか(松尾豊)

http://ymatsuo.com/papers/neru.pdf

 

以下サマリーです。

研究者はいつも締め切りに追われている。余裕をもって早くやらないといけないのは分かっている。毎回反省するのに、今回もまたぎりぎりになる。なぜできないのか?我々はあほなのだろうか?本論文では、研究者の創造的なタスクにとって、締め切りが重要な要素となっていることを、リソース配分のモデルを使って説明する。まず、効率的なタスク遂行と精神的なゆとりのために必要なネルー値を提案した後、リソース配分のモデルの説明を行なう。評価実験について説明し、今後の課題を述べる。

 

 

 

4.禁書三昧(城一郎)

「発禁本≠猥雑本」なので、政治思想を含んだために「危険」と判断されて回収されたなどの理由の本がたくさんでてきます。代表的なものが小林多喜二の『蟹工船』などでしょうか。

この本自体が読もうと思ってもなかなか手に入らないので、『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』とかが類似かなと思います。Amazonだと取り扱いがないので書影が出ませんが、この本の装丁、和紙に凹印刷なうえに本人のサインがありました。どうやら表紙の和紙の色も統一ではないようです。すげえ。

後から古書検索などしましたところ、そもそも200冊程度しか発刊されなかったもののようです。稀覯本かい。

著者が蒐集した発禁本が10年ほど前に大学で展示されたことがあるようで、コンセプトや概要、資料的価値などについてこちらで知ることができます。

http://www.lib.meiji.ac.jp/about/exhibition/gallery/44/44_pdf/pamph_44.pdf

 

あと面白かったのは、「電話で『本を譲ってください』とか『卒論に使いたいのですが』みたいな相談が安易にくるので勘弁して欲しい、自分で集めろ」みたいなくだりでした。40年前でも今と同じような問題があるんですね。

 

 

 

5.猟銃・闘牛(井上靖

井上靖初めて読みました。国語の教科書に載っているような純文学を読むのはいつ以来なんだ…

実はこの本が目にとまったのは、つい先日まで読んでいた『〆切本』の中で著者の井上靖が〆切破りの常習犯だと編集者から名指しされていたからなんです。因果すぎる。ちなみに当の井上靖本人の手になる〆切の話もありましたが、本人は全然悪びれてなくてめちゃくちゃ笑いました。いや俺は早く書けないしそういうタイプの人間じゃないしさあ…みたいな。

そして本編に入りますが『猟銃』、『闘牛』、『比良のシャクナゲ』どれも良かったです。『闘牛』が芥川賞受賞作とのことだったのですが、ごく個人的な感想としては『猟銃』が良かったです。いずれにしてもぐいぐい読ませる文章でした。主人公の男ども、みんなわりと後悔してなさそうだし、してたとしても自己愛っぽそう〜というのが皮肉った感想です。

自己愛が悪いとかではなくて、後悔や反省の様式が最初からそうというか、良くも悪くも「他人に入れ込む」みたいなのが存在しなくて、「何が悪かったんや?」みたいなのを考えたところで多分「いや、これしかしようがなかったんだ」と結論づけそうというか。『比良の〜』については絶対反省しない。こういう人時々いますよね。

読んだことのある人にとってはこの3篇に「反省」や「後悔」なんて言葉は似合わなくない?と思われそうなんですが、客観的には明らかにまあ反省とか後悔とかちょっとくらいしそうな状況なんですよね。でも多分しない、そこがいいみたいな。反省も後悔もしないタイプの自己憐憫

 

 

 

6.大学の話をしましょうか 最高学府のデバイスとポテンシャル(森博嗣

大学教員としての森博嗣全然知らなかったけど面白いなと思いました。この人にまつわるエピソード本当に超人っぽくて面白く、しかも職業作家になろうと思ってなったというのも知らなくてびっくりしました。助教でずっとやっていけたら面白かったのに...という諦念がそこかしこに見受けられます。

内容に対しての意見が是か非かはともかく、大学に携わる人間であれば読んでみて面白いと思います。

また、本人が高等教育に対して持っているモチベーションが個人的には非常に共感できるものでした。

教育というのは、先生が生徒に力を見せるものなんです。人間は、歳をとれば衰えます。子供たちは、衰えた力が見たいのではないのです。第一線で活躍している力が見たいのです。また、コミュニケーションの成立条件としても、やはり、学生と教員の年齢は近い方が有利だと思います。

或る意味これは近年の「実務家教員」などといって天下り先になることを阻止する手段でもあると思います。50代で教授になってそこから教えるというんではもう遅いというわけです。なかなかにパンチの効いた言説で、特に私のような実践領域に身をおく人間としても身につまされるものがありました。説得力が違うんですよねえ...。

 

 

 

7.メディア・コントロール―—正義なき民主主義と国際社会(ノーム・チョムスキー

チョムスキーってそんな骨のある人だったのか...(今の今まで知らなかった)

メディアにも露出が多くて、過去の計算機科学と言語哲学の双方に多大なる貢献のある人だというくらいのことしか存じ上げないのですが、「私が何かものをいっても市民から批判がやってくるくらいで済むのは言論統制とは言わない」みたいな強硬姿勢めっちゃかっこいいですね。いや身の危険あると思うんですけどね......。

 

 

 

8.反〈絆〉論(中島義道

これも面白かったです。

現代社会の煩雑な互恵性に対して、主にカントを中心に「思いやり」の煩わしさと矛盾を説いた本。「街がうるさい」とか「眩しい」が「思いやり」による所産だとかは考えたことのなかった視点なのですが、確かに「行きすぎたサービス(による保身)」が本来の「思いやり」のもつ倫理的態度からしてどうなのみたいな観点がありますよね。意外と考えたことなかったな、と思います。「差別」がなぜいけないのかを語ることすら許さない昨今の風潮のなか読むと味わいのある一冊かもしれません。

 

 

 

9.赤ちゃんポストの真実(森本修代)

赤ちゃんポストの法的根拠と歴史、その運用についてのルポタージュ。ひとりの記者がこれほど長く密着して取材された例は他にないのではないでしょうか。

なお、私は「記者」という立ち位置がどうあるべきなのかよくわかりませんが、本書の著者は「ポスト批判派」です。「無条件(無責任)の推進ではない」というくらいのニュアンスもあれば、いち私立病院が本来役割を負うべきでないといった明白な否定のニュアンスを伴うときもあります。筆者の主観が全編に漂っていることをご承知のうえで読んだ方がいいかもしれません。

 

「命を救う」のひとり歩き(歩かされ?)と、「子の幸せ」のバックラッシュがどのように織りなされているかがよくわかります。先程、本書はやや偏った意見だと述べましたが、そこかしこに著者の反省も書かれています。そういう意味では、ルポタージュというよりエッセイの色合いが強いのかもしれません。著者の疑問ももっともで、そもそもひとり歩きそれ自体がメディアによってもたらされたもの、すなわち「身から出た鯖」であることも本人が認めています。

感動ポルノに仕立て上げられないようにするのは難しいです。

 

内密出産も赤ちゃんポストも報道では大きく出ますが、その背景にあるのは母子支援の拡充のと手段の多様化の必要性であり、妊娠出産と育児の責任を「母親」のみに負わせてきた社会の偏見であると改めて思わされた一冊でした。

 

 

 

10.たまひよ離乳食大百科—たまひよ大百科シリーズ(ベネッセコーポレーション

突然出てきた離乳食百科。

古めの本ですがバランスよく書かれていて良かったかなあと思います。ネットでいくらでも情報は出てくるんですが視認性がやや悪いのでまとまったものを読みたくて手に取りました。今は新しい版が出ていますのでそちらで良いと思います。

 

 

 

さいごに

この10冊はかなりスピーディに読みました。多くの本をちょっと変わった図書館で借りているのですが、いつも子どもを連れて訪れるので、司書の方から「いつ読んでるんですか?」と尋ねられます。いつ読んでるんでしょうね。自分でもよくわかりません。