毒素感傷文

院生生活とか、読書の感想とかその他とか

100冊読破 7周目(71-80)

1.踊る物理学者たち(ゲーリー・ズーカフ)

「踊る」ってなんなんだ、と思っていたらdanceではなくてtaoの方だったみたいな話。

物理(学者)の歴史を紐解いていく本なので、学説が変わるときのエピソードなんかが好きな人は好きかもしれない。実験装置がどんな規模で何を測定していて、どういうノイズがあったのが何が原因で除去されて…という研究解説もたくさん入っているのでそういうのが好きな人は好きかもしれません。

ブラックホールを見つけた男』のドロドロしていない版という感じです(どういう表現なのか)。

 

 

2.漂流の島: 江戸時代の鳥島漂流民たちを追う(高橋大輔

テレビ局のディレクターがあまりの鳥島への興味のために仕事辞めて鳥島調査に行く話。

後にも出てくるけど、鳥類学者でさえ無人島の生態系保全のためになかなか立ち入れない島がある中、一般人がここまでつてを作っていくのは本当に大変だったろうなと思う(大変だったという記載がある)。

 

この本の話、NHKでドキュメンタリーを組まれていたとのことで興味を持って買ったのだけど、「テレビ局で特集を組まれる」というのがそもそも著者の本望でもあったのでそこはある種の達成なのかなあとか思いました。ネタバレを言ってしまうと、調査困難となり途中終了となってしまうのですが、それでもこの無人島の歴史学的なところを繙いたのはこの人の功績ではないでしょうか。

私は僻地や無人島、無人村(廃村)の歴史が好きなので燃えました。

 

3.沈黙の春レイチェル・カーソン

かの有名な、除草剤の害を糾弾した著書。中学生の英語の教科書かなんかに載っていたのが最初だと思います(概要ですが)。

環境活動家のようなことをしていたのかとてっきり勘違いをしていましたが、彼女はあくまで化学物質の使用と生態系の変化、人体への害を淡々と指摘したに過ぎないというのがよくわかる著作です。

あと、この本を読むまでまったく知らなかったのですが、この方詩人なんですよね。科学者と詩人ってなんとなく相性が悪そうなんですが両立可能なのか、とちょっと面白く感じました。『センスオブワンダー』以外にも有名な著作があるそうです。読んでない。

 

4.喘息百話(久保祐)

この本の中に地味に私の元主治医(というほどでもないですが診療を受けたことがあります)が出てきてびっくりしました。

昔の喘息治療、吸入ステロイドやβアゴニストの併用が主流になるまでは本当に大発作でたくさん人が亡くなるような疾患だったのですが、本書の著者もそういった中で成長され、そして医師になられたあとに発刊されたものです。

喘息の歴史と共に個人史が知れて、ある種の患者体験記でもある良い本でした。喘息に興味のある方は是非(?)

 

 

 

5.「サイレントスプリング」再訪(G.J.マルコ)

沈黙の春関係がもうひとつあったので読んでみました。10年くらい後の、『沈黙の春』の社会での受け止めとその変容を書いた話。あとは科学的な部分の検証とかですね。

 

 

 

6.連合赤軍あさま山荘」事件(佐々淳行

突然のあさま山荘事件

wikipediaには結構詳しく事件の経緯(とそれまでの逃避行や仲間内の殺人事件など)がまとまっているのですが、警察内部の話は少ないので、この手記は主観ながら「当時の警察組織」の内容がわかって面白かったです。

てかキャリア官僚ってこんな前線に出てたんだな(異例だとは思いますが)。

 

 

 

7.世界屠畜紀行(内澤旬子

この本はとてもよかったです。

先に書いておくと、この本はあくまで主観による観察であって研究ではありません。

ゆえに、著者の意見やそのときの感情、それに伴う感想など主観的情報がとても多いです。私が普段読む本からすると相当な雑音であり、結構読むのが大変でした。でも今回はそこも含めて良かったと思います。

著者が手ずから集めた資料、インタビュー、どれもとても貴重なものだし、もしかすると研究という関わり方ではインフォーマントに嫌厭されてしまって得られなかった情報もたくさんあるかもしれないと思わされる記述です。それくらい仔細でした。

この本1冊刊行するのに一体何千時間使ったんだろうというくらい中身が濃いです。屠畜に関する文化と、そこに対する差別感情(差別がない場合はその仕事に対する受け止め方)の調査だけども屠畜に関する制度や、作業場がどこに置かれるのか、伝統的な方法と現代的な方法にどこまで差があるかなど複数の国の文化について触れられています。あと絵が細かい。

すげーのひとことです。

 

8.鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。(川上和人)

こっちも面白かったです!先に挙げた『漂流の島』とは異なりこちらはプロ(?)の鳥類学者によるもの。

「研究者とはいかなる生態か」みたいな話も含まれているので、研究に馴染みのない方にこそ読み甲斐のある本だと思います。いわゆる一般向け学術本のさらにライトなやつです。種類としては前野ウルド浩太郎氏の『バッタを倒しにアフリカへ』がかなり近い部類です。

 

本書は鳥の生態保全から島嶼の鳥の分布の歴史などから調査方法、著者のスケジューリングまで様々な「研究活動」全般に目を向けたものなのですが、一般人向けなのもあって?とにかく書き口が軽妙です。調査出かけたくねえとか耳に蛾が入ってサイアクとか調査結果発表し忘れてたら別のグループに発表されてしまったとか(これは軽妙ではない…)。

今回の100冊のうち10選に入れられる気がします。

 

9.死体格差 解剖台の上の「声なき声」より(西尾元)

法医学教室の教授の手記。

私も記憶に残っているのですが、高齢の母と2人暮らしの娘(といっても中年)が車に轢かれ骨盤骨折したあとも自宅で寝たきりで過ごし、失血で亡くなったという事例が出てきます。結果として背景にあったのは本人のアルコール依存であり、轢かれたのは禁止されている酒を買いに行くための外出だったから、というなんとも後味の悪い話なのですが。

 

上記のようなケースを含め、背景に貧困や複雑な家族背景を有する事例があることを訴えたくて書かれた本なのだそうです。

病理解剖は盛んですが、司法解剖となるとなかなか扱っている教室も少ないので貴重な手記だと思います。

 

 

10.医者 井戸を掘るーアフガン旱魃との闘い(中村哲

アメリカによるアフガニスタンへの報復戦争の裏側で医療支援を行っていた医師の記録。ちなみにこの方、本当に八面六臂のご活躍をされていますが、2019年に過激派の凶弾で斃れられています。なんとも苦しい結末です。

 

アフガニスタンでの医療を行うにあたり、そもそも清潔な水の供給どころか農業用水生活用水あらゆるものが枯渇する旱魃に見舞われることが予想され、それどころではないと水源確保に奔走された記録です。

短い感想しか書けませんが、一読の価値があります。

 

 

10冊読了記

今回の10冊を読むのに5ヶ月。約半年近く要したと思うと「随分時間がなくなったなあ」と感慨深いものがありました。

育児に加えて転職し、さらに研究活動をぬるっと再開したからというのもありますが、いい本に出会えたと思います。

またぼちぼち読んでいきたいですが、年度内に700冊には至らない気がします。無念。