毒素感傷文

院生生活とか、読書の感想とかその他とか

100冊読破6周目(21-30)

1.コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか(旦部幸博)

ずっと積読していたのですが、とうとう読むことができました。

著者はもともと遺伝学・分子生物学を研究されている教授です。コーヒー好きが嵩じて、コーヒーの豆(と言われているもの)の構造、成育地の環境、果ては焙煎のメカニズムから「香り」の仕組み等、コーヒーのふしぎをどんどん暴いて(?)いきます。

自分は普段はチェーン店のコーヒーしか飲まないのですけれど、この本を読みますと久々に純喫茶に行きたくなります...(日本のコーヒー文化も独特のものだそうです)。

 

2.データ・ドリブン・エコノミー デジタルがすべての企業・産業・社会を変革する(森川博之)

データ・ドリブン・エコノミー  デジタルがすべての企業・産業・社会を変革する

データ・ドリブン・エコノミー デジタルがすべての企業・産業・社会を変革する

 

こういう本あるある夢見がちナントカカントカ5.0かなぁと思って手に取ったのですが思ったよりは地盤の堅い本でした。農業または人口減少と都市の関係に関しては特に必要な見通しだと思いました(実際に本書に書かれている実装ができるかどうかはともかく)。

オススメするというほどでもなかったんですが...。今時感は否めないです...

 

3.ケアの実践とは何か: 現象学からの質的研究アプローチ(西村ユミ 榊原哲也)

ケアの実践とは何か: 現象学からの質的研究アプローチ

ケアの実践とは何か: 現象学からの質的研究アプローチ

 

現象学から遠ざかってなんなら苦手意識が生じてきたような気がするのでリハビリを、と思い読みました。

移植医療の際の母親の葛藤についてなど、臨床ではあることかもしれないけれどなかなか深く立ち入ったりそれを他の人が広く知るようになったりということがない出来事について、看護者の立場から振り返るものです。死産、移植後の臓器不全など、臨床にいてもタッチしづらいというか心苦しいものを記述することは骨の折れる作業であったろうと思います...。

自分が研究やるかどうかではなく、こういう研究をやる人(またはインタビューを受ける人)がもっと尊重されればいいなあと他人事のように思ってしまいますが、他人事ではないので支援します...はい...(助力になるかどうかはともかく)

 

4.ヘーゲルを学ぶ人のために(加藤尚武 他)

ヘーゲルを学ぶ人のために

ヘーゲルを学ぶ人のために

 

精神現象学を読みたいなと思っていたので手を出しました。

ヘーゲルというと法哲学の印象が強かったのですが、この解説の中ではヘーゲルの書く文章に対する注釈が非常に多かったです。大論理学とか弟子がいっぱいつけ足していて本文はそんなに多くないで!!!!みたいなくだりが何度も出てきます。

精神現象学が若かりし日に書かれたことも自分はこれで初めて知ったのですが、内容の一部を解釈したところを読むに、ハイデガーはこの思想をよく汲んだのではないかという印象がありました。ハイデガー読んだことないのでそんなことは言えないのですが、放送大前期の科目でとった『現代の危機と哲学』、『現代フランス哲学に学ぶ』のいずれにもハイデガーは顔をだしますし、その中での実存に関する記述に似たようなものを見出しました。ちなみに認識論のくだりはさっぱりわかりませんでした(ここがわからないからといって他がわかるわけではない)。『純粋理性批判』をよくわからないまま読んだ余波がこんなところに出てしまったという無念でいっぱいです。

が、これでなんとなく心のハードルは少し下がったので、モリモリ読んでいくしかないなとも思いました...

 

5.心理学の7つの大罪ーー真の科学であるために私たちがすべきこと(クリス・チェインバーズ)

心理学の7つの大罪――真の科学であるために私たちがすべきこと

心理学の7つの大罪――真の科学であるために私たちがすべきこと

 

とても面白かったです。『心理学の』と表題にはありますが、決して心理学のみの問題ではたりません(著者が認知心理分野の研究者だから様相に詳しいというだけのこと)。学術分野の人には非常に耳が痛く、また頷ける(または忌避感が出る?)話であろうし、一般の人でも読めると思います。研究手法や、査読の過程の独特の用語や文化は少しわかりづらいですが。

少なくとも査読がどういうものかとか、研究デザインの組み方がどういうものかはふんわりわかるかと思われます。この本は不正の起こりやすさを指摘するものなのですが、不正が『発覚する』というのはある種の健全性の証でもあります(もちろんそこにも問題は山積していて、本書の中にも書かれています)。

S●AP細胞とか反ワクチン論文で散々叩かれたのが一体何かを少し垣間見ることができます。

 

6.「自由」のすきま(鷲田清一

「自由」のすきま (単行本)

「自由」のすきま (単行本)

 

相変わらずの寄稿集なんですけど、いつもわりかし説教くさいのに、たまに「あれ?これこの考え方ありなのでは?」って批判先をじっと観察している様子が伺えます(どんな感想文よ

なんとなくいつもより説教くさいです。寄稿先の問題か、要求されたテーマの問題か。

 

7.反乱する都市ー資本のアーバナイゼーションと都市の再創造(デヴィッド・ハーヴェイ

反乱する都市――資本のアーバナイゼーションと都市の再創造

反乱する都市――資本のアーバナイゼーションと都市の再創造

 

産業の変動、都市と郊外の資本の動き、不動産価格の変動、金融危機… 経済学ではおなじみの理論が都市でどのように人を動かし(いや、反対に都市の人びとがどのように経済を動かし?)、変化に影響を与えていたかを説明するのが第1部。経済予測がうまくいかない理由と、そのうしろにあった政治的な取引等々。

第2部では、実際に起こった都市のジェントリフィケーション(中産階級化・スラムの阻害)や今起こりつつある街並みの変動と住民の運動を説明します。ハーヴェイの本を2冊ほど読んで思うことですが、人間を対象とする場合の解説の規模は群衆または民族的・社会階層的特徴をもつ集団に集中しているように思われます。『資本主義の終焉』はそれなりによかったんですが。

都市社会学と経済学の視点では常に架け橋になってくれるように思いますが(前者はエスニシティに寄り過ぎ、後者は個人や集団を合理的存在だとみなし過ぎているように感じられることがあるので)、繋いですぐに得られるものがあるかと言われるとこの点においては難しかったように思います。社会学の関連書籍を読んでいるから思うことかも知れませんが。

 

8.パラレルな知性(鷲田清一

パラレルな知性 (犀の教室)

パラレルな知性 (犀の教室)

 

数冊前の『「自由」のすきま』と比較して、鋭さのあるいいテーマが選ばれていたように感じます。

こちらは東日本大震災の数ヶ月後からあちこちに寄稿された文章なので、科学コミュニケーションの重要性がそここに要求されています。専門家のみに努力を望むものではなく、ただ口をあけて知識を待つ市民に対してもリテラシーの求めている節が多かったです。

軽く読めますし、擬似科学に手を焼く人も擬似科学と科学の区別がつかない人も読んでほしい…

 

9.系統樹曼荼羅ーチェイン・ツリー・ネットワーク(三中信宏 杉山久仁彦)

系統樹曼荼羅―チェイン・ツリー・ネットワーク

系統樹曼荼羅―チェイン・ツリー・ネットワーク

 

名前と表紙のインパクトが強すぎて、数年前に心の積ん読にした本です。リンネ以前にも以降にも、生物学以外にも観念としての系統樹が存在したことを解説してくれます。

人間はマインドマップを作るのが好きで、それによって概念を整理することができるのだ...と。家系図、学問の系統樹、はてはマンガのキャラクターの分類まで...。

 

10.身体をめぐるレッスン<4> 交錯する身体(市野川容孝 他)

身体をめぐるレッスン〈4〉 交錯する身体

身体をめぐるレッスン〈4〉 交錯する身体

 

自分の既読の中では『知の生態学的転回』のシリーズがまことによかったのでなんとも言えない気持ちになったりならなかったりするのですが...。

序盤には、家庭内暴力の構造とその緩和のための方策について。

中盤に、昨今とくに目立ってきている重度身体障碍者支援の溝の部分にあたるところのお話がありました。障碍者支援の、無償ボランティアー有償ボランティア、障碍者の自立を妨げる要因とスティグマについて。対談形式になる章が多いので、読みやすさと理解のしやすさでいえば高評価であると思います。ただ、自分はなんとなく現場が思い浮かぶので了解可能な部分が多かったものの、実情をそこまで知らない人はどうなんだろうと少し思います。

個人的にとてもよかったのは、生殖補助医療による自分のルーツ探しの動機とその実態、それから(死体・生体両方)臓器移植の同意・非同意の実際。特に後者は絆の破綻した家族とそうでない家族の差が見えて、読んでいてつらいものがありました。特に生体移植においては、子がレシピエントとなる場合に母親がドナーとなる場合が比較的多いようで、なんともいえない気持ちになります。自分もそういう場面に出くわしたことがあります。傷のない体にリスクを負うことに前向きになれればもちろんそれに越したことはないのですが、複雑な家庭環境を背景として無言の圧力がかかるケースも多いと。そしてその葛藤を解消するために割ける時間は多くない。以前著書を読んだことがある春木繁一先生(精神科医・透析当事者)の回診の様子が書かれていました。

HIVの予防と啓発のための教育・広報の話もまあ巷間よく言われている話なので(知らなければためにはなるけれど)あえて自分から指摘することもないかなと思います。

 

雑記

前回から10日前後で10冊を読んだようです。

軽い本が多かったとはいえ、試験からの解放感が大きかったです...。