毒素感傷文

院生生活とか、読書の感想とかその他とか

修士出て良かったことと損していることみたいな解説

こんにちは。放送大学関連の記事を書くのはめちゃくちゃ久しぶりなのですが、卒後丸2年が経過して、そろそろ「お前2年もかけて修了したくせに今何やってんの?てか修士出る意味あったの?」みたいな心の中の外野の声が聞こえてきつつあります。ゆえに筆を執ります。

 

私生活での選択も交えるので参考になるかといわれると微妙ですが、実際の人生の選択なんて私生活とのバランスでやじろべえをするようなものでしょうから、「実際にやるとこうなるんだな」くらいに思っていただけましたら幸いです。

今回は私の性別が大きく影響した結果になっていますが、裏を返せばそれは反対の性別の振る舞いを規定するものでもあるので、その辺りも少し触れられればと思います。

ではいきましょう。

 

 

 

修士課程修了後の仕事について

すみません、修士課程修了直前に出産したのであまりアテになりません。

 

初っ端からこんなで本当に申し訳ない。けれども私の分野(看護)は社会人修士が当たり前、むしろ多数派の世界なので、こうして家庭をもったり新しい構成員が増えたりといったライフステージの変遷を同時に経験される方も多いでしょう。そして女性の多い分野ならでは、そこにガッツリ身体的負担が伴ってロクな社会復帰をするにはどうやってもいくらかの無理が生ずることもあろうかと思いますので、実際に選び得た選択肢と進んだ道を途中まで書ければ良いなと思います。

 

 

 

やれたこと

1.TA(大学の助手)に戻る

これが修士卒後3ヶ月、産後4ヶ月でした。常勤ではないために可能だったことですが、よくもまあそんなことをやったなあという感じです。

そのあとも1年強続けたので、産前(修士課程中)から通算すると2年ほどになりました。

 

  • 選んだポイント

ここでわざわざ頑張ってまでTAを選ばない方も多いとは思いますが、私は出身こそ看護の分野でありながら工学・情報学寄りの研究室を出ました。広く言えば健康科学ですが、修士号は「学術」であっていまいち何をしたかもパッと見わかるものではありませんし、看護のアカデミアと繋がりを持つにはインパクトの薄い領域です。ゆえに直接「自分の経歴が役にたつかどうか」を検証するにはTAをやってみるのが一番でした。

結果としては、常勤の病棟臨床4年と修士課程で要件は満たせたのと、先につながる話も見えた(後述の理由で叶いませんでしたが)ので大きく外した選択ではなかったと思っています。

 

 

 

2.臨床に戻る(訪問看護

元々卒後は院進/アカデミア就職/臨床出戻りあたりで悩んでいましたが、結局とりあえずは臨床経験の続きを確保するということで新たなフィールドに来ることになりました。これが産後1年ちょっとのときで、今やっと歴1年が経とうとしているところです。残念ながら(?)これまた私生活が立て込んでいる都合上、1年で産休育休に突入することになってしまいますがそこは仕方のないことと割り切っています。そもそもが子持ちのパートとして就職しているので職責も業務負担も重くはなく(どうやら必ずしも楽ではない部類の職場のようですが)、臨床経験が少なくて心許ない大学院生の修了後としては安心して経験を積める場所かもしれません。

 

  • 選んだポイント

上述の通り臨床経験の少なさからですが、病棟に戻らなかったのは純粋に病棟が大して好きではなかったのと、おそらく残り少ないであろう臨床経験を別の領域で満たしたかったことが影響しました。

元々自分の研究領域や興味の範囲が病院という組織にこだわらず、広域の医療圏での活動全般であったためにこちらも悪くはなく、迷う価値のあった選択肢だと思っています。

 

  • ちょっと焦ったいこと

が、もちろん真の目的であるところのアカデミアとは無縁の場所なので、雌伏の時期といいますか「子育て+α」くらいにしか専念できないもどかしさもなくはありません。

これは私の頭が若干おかしいのかもしれませんが、元々臨床で働きながらややずれた分野の学部を卒業して院進してきたので、「ながら作業」みたいな方針が自分の中で当たり前のように立っています。ゆえに、「子育てと臨床」のような相性の良い(説明のききやすい)ことをしているとなんだか面白みに欠ける気がして足がムズムズしてくる感じです。我がことながら、こいつ大丈夫なのか?とか言いたくなりますが事実なので仕方ありません。

 

選ばなかったこと

以下、1はTAをやっている最中に転職サイトに登録しておいたら個人的なメッセージがきた職種、2は転職サイトから自分で申し込んで内定が出たもの、3は修士後取った資格と修士卒の経歴加味して興味を持たれた(が、私の方の事情により話を先に進めなかった)もの。

 

1.企業就職(CRO、医療機器の営業、同業者向けのweb記事執筆・教材開発)

ありがちなパターンの企業就職ですが、別に看護師の臨床歴のみから転職しても構わないと思います。ただ、向こうから話が来る、特に3つめの「教材開発」が来たのは学歴あってこそかなと思いました。ちなみに外資系で本社は東京、リモート勤務可能みたいな条件でした(転職後だったので返事しておらず)。

 

2.別分野の教職

TAから常勤へのキャリアアップを打診されてお断りした結果、純粋にTAの口が先細りになりつつある時期に探したもの。

教職系で何か面白いものはないかと探して見つかったのが、医療事務系や美容系専門学校の保健分野の非常勤講師というやつでした。まあTAと大差ないといわれるとそうなのですが、結局内定までいただいたので、修士卒でなければどうであったかなと、思う求人でした。

あまり将来に続く職歴ではないかもしれませんが、看護師の臨床歴のみだと説得力を持たせにくい分野ではあるなと感じます。

因みに美容の国試、保健領域では皮膚の解剖生理が出てきますが結構難しいですしいい問題が出ています。学生さんは点数を落とすところだそうですが…(看護師にとってもそれなりに難しいと感じる問題でした)

 

 

3.別業種での病院就職

面談まで話を進めたわけではない上に修士卒+卒後にとった医療系の資格も加味してのものなのでどうかとは思いますが、臨床経験のみの看護師とは別ルートという意味では書く意義があろうかと思います。

 

ひとつは診療情報管理士そのもの、もうひとつは病院の事務部署(医療事務ではなくデータ分析系の部門)でした。こちらも臨床経験のみですと声はかからない(というか必要なスキルを証明できない・ポテンシャルが伝わらない)ため、修士卒は役に立ったかなというところです。転職後であったために選びませんでしたが、在宅の臨床経験をとるか異業種の経験をとるかの2択であれば個人的にいちばん迷った職種です。

 

 

 

4.職業以外でやれたこと

TAから転職して非常勤をやり始めて数ヶ月のころ、研究活動も再開してデータ分析をして国内での学会発表まではやりました。

1歳児を育児しながらだったので些か大変ではありましたが、「(妊娠出産・)育児しながら非常勤と修士課程」というルートよりは確実に楽であったと思います。なんだかんだでdutyの座学はもうありませんし、進捗管理も自分のペースでできますし、期限は学会のものだけであって卒業(修了)のかかったものではありませんし。

なお、モチベーションは低めでしたが、とある助成金の締切を妊娠出産育児により引き延ばしまくっていたのでいい加減研究をまとめなければならなかったという負のインセンティブがありました。

 

スケジュールとしては週4の9:00-16:30で働いて残りの1日や平日夜間、土日のどこかを使ってちびちびと進めていった形です。子どもの夜泣きもおさまってきたころだったので自分の生活リズム(夜型)を活かすことができました。特にすごく無理をして睡眠時間を削った覚えもないので、「できる範囲で」という感じです。不完全燃焼感は否めませんが、完全燃焼して育児や仕事に影響が出ると元も子もないので隙間プロジェクトでした。

 

 

 

やれる可能性があったができなかったこと

1.教員常勤

要するに大学での正規の勤務ですが、これはTA先から正式に話がきたものの子育てのスケジュール調整ができずにお断りしたものです。過去に色々なところで書いてきましたが、看護の世界は未だに修士卒でも臨床経験があればバンバン臨床系の講座の教職があります。というか大体それくらいが前提です。

私の場合はどうしても長時間家を離れることができないので選べませんでしたが、子どもが小さかったりという特殊な事情がなければ修士卒後すぐにこの選択をできる方もいらっしゃると思います。

 

この話のミソは「修士(学術)」でも臨床経験があれば十分要件を満たすということで、看護学系の研究室への院進とそれ以外で迷っている方へのちょっとした情報提供になれば幸いです。

 

2.院進(博士課程)

結局未だにできていないんですがァァァァァ……こればかりは妊娠出産をそれなりに短いスパンで詰め込んだ自分の家庭の選択なのでどうしようもありません。第一子のときもそれなりにデータが溜まり、修士卒のめどが立ってからの妊娠出産だったので2年で出られましたが、ぶっちゃけ乳幼児の育児は仕事よりも先が読めず、また仕事よりも周囲の振る舞いを強く制限します。

周囲には乳幼児を育児しながら修士課程に院進された過去をお持ちの方もいらっしゃいましたが、人生でいちばん辛かったと仰っていたところをみるに、「今まで経験したことのない(予測のつかない)負担」は同時期に1つまでにしておいた方が無難だなという印象です。

もちろんさまざまな人生とそれに伴う計画があろうかと思いますのでご一考程度に。

 

因みに私の計画その①だと修士修了間際に出産、そのまま4年制博士課程院進というものがありましたが、これは様々な事情があったとはいえ「体力的に絶対無理だった」と今なら言えると思います。働かなければギリいけるのかもしれませんが、未認可保育所を確保する都合や父母の育休以外にも第三者の育児サポートが確実に見込めなければ成立しません。させてきた方がいらっしゃれば是非経験談をお寄せください。私が参考にさせていただきます。

 

 

 

損しているところ

損、と書くと微妙ですが、現状「院進したところで稼得が増えた」という因果関係は一切ありません。というか減っています。

私のようなパターンで院進しない場合は、病棟勤務を継続して結婚・妊娠出産育休→時短復帰のコースが一般的です。なので、このコースとあえて並列するのであれば、通信制大学のため「常勤のまま院進する」が収入を減らさないためのポイントだと思われます。

 

損しない人が取る選択

純粋に経済的なメリットのために院進する方にお勧めできるルートは、

  1. 専門職大学院→企業就職
  2. 大学院上位資格→病院就職(特殊ポジション)
  3. 大学院→常勤教職

のルートが一般的かと思われます。が、3に関しては看護師であれば最初のうちは以前よりマイナスになる可能性もありますので収入にこだわる方は1or2の方がおすすめだとは思います。

逆に、一時的な収入の多寡に強いこだわりなく、「生き方(働き方)に幅を持たせたい」「新天地で働きたい」みたいな方は私と同じルートでいくのも十分おすすめはできます。収入の多寡は病棟勤務と比較すると多少は巻き返せます(時間はかかりますが)。

 

そして、上述の通り夜勤やオンコール、当直込みの勤務と育児を両立されながら修了された医療職の同期(男性)もいらっしゃいましたが、命を削るようなスケジュールに対して得られるものは

  • 収入が減らないこと
  • 卒後の自由度(先述のように常勤で教職に転職するなど)
  • (病院附属でない大学の場合は)研究フィールド

でしょうか。

 

逆に足枷になるものは、

  • 普段の仕事をしろ圧
  • 上司・同僚への根回しが必要
  • 健康

…あたりです。結局仕事は仕事で研究と切り離して時間通りに働かなければならないことが多いので、さらに残業もありうるとなると両立は本当に大変です。職場からも家庭からも肯定と承諾と応援を必要とします。非常勤だとこの辺りは自分で調節できるので、楽ではあります。私の場合はまだまだ生涯年収でいうと明らかに落としている方なので、家庭の不良債権としてデカい顔をしています(学費研究費私生活費は自己資金だが生活費は家に入れておらず、家庭に貢献していないとか)。

 

私生活がめまぐるしいフェーズの方ですと、院進にあたり常勤をとるべきか非常勤をとるべきかは家庭によって(性別に語らせたくはないですが、やはり女性に出産の負担は偏りその間の経済負担は男性に偏るので)様々異なってくるかと思います。ご参考になりましたら幸いです。

 

 

 

おわりに

わざと「損している」と下げて書いてみましたが、一見「損している」ように見えるところも、今後の働き方や院進後の経過によって「意外と得してます」「金銭的な価値以外にこんな自由ができました」などと言えるようになればいいなと思いつつ書きました。

まあ、「自由が欲しい」という漠然とした期待よりは、「どうせ縛られるなら自分を縛る足枷の種類を自ら選びたい」くらいの方が変なやりがいなどを求めずドライにやっていけるような気はします。

 

ひとさまの悩みを増やすだけの記事かも知れませんが、年ごとの定点観測として無理やり残すとこんな感じでした。それではごきげんよう