300冊読了記
前回200冊読了記から半年と半月、300冊目を読み終えることになりました。
前回との大きな違いといえば、臨床3年目を迎えるにあたって大学編入をして心理学を学び始めたことでしょうか。もっともそれらを学んだところで、わかっているとは到底いえないのですが。
201-300冊目で特徴的だったことは、それまでよりもデザイン関係の本がぐっと減ったことでした。読む必要のある本を読んでしまったといえばそれまでですが、読書リストを見ていると社会学・哲学・経済学の本が圧倒的に多かったです。とくに理由があるわけではないのでなんともいえませんが、心理学についての本は教科書で網羅的に読んでいたので読む必要がなかったのかもしれません。
この半年で大きく自分を変えたのは読書の方向性というよりは確実に大学に入ったことのほうであり、そちらから得たもののほうがずっと大きいと思っています。この読書は最早習慣を崩さないためのものになり、楽しみのためになりました。相変わらず読書から何かを学んでいるとは、口が裂けても言えないとは思います。しいて言えば、習慣を保つことそのものが自負になっていたといっても過言ではありませんでした。人と対話することに疲れていたので、本に問いかけ、本から答えを得ているのは今も同じです。
100冊の中からオススメ9選
1.ファスト&スロー(ダニエル・カーネマン)
認知心理学・行動経済学の本。カーネマン単独の名前で書かれていますが、トヴェルスキーとの共同研究に負っています。
意思決定・選好における認知のバイアスの話ですが、そう書かれるとめっちゃ堅苦しいですね。経済的合理性(エコン/ホモ・エコノミクス)を問う話でもあるので、すべての人に楽しんで読んでもらえること請け合いです。私はとても好きです。
2.〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則(ケヴィン・ケリー)
題名がすごくセンセーショナルなのでヒいてしまう人も多いかなあと思うのですが、公共哲学とかよりももっとわかりやすい情報の倫理・リテラシーに関する話題が豊富です。何よりまとまりがよくて読みやすいのが魅力。
3.死にゆく患者と、どう話すか(國頭英夫)
国立がんセンターの医師による、看護学科1年生におけるゼミの記録。
語り口は結構「んー」と思うところも自分は多いのですが、そんなことより、「死にいくこと(つまりまだ生が残されていること)」について”考えたことのない ”人にこそ読んでほしい本です。我々がどのように思考の方向性を身に着けるのか、それを制御するのかということを学びなおすこともできるので、万人に楽しんでいただけると思います。
4.ことばの認知プロセスー教養としての認知言語学入門ー(安原和也)
これ結構発達障害の人にお勧めなんじゃないだろうかと思ったりします。言語的なコミュニケーションの様式の基盤になる大事なことが書かれている。
入門書というか一般人と専門家のあいだをカバーすべく書かれた本なので、とても読みやすいですし、図も多いし概念理解がたいへんよいです。イチオシですこれは。
5.中動態の世界 意志と責任の考古学(國分功一郎)
中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)
- 作者: 國分功一郎
- 出版社/メーカー: 医学書院
- 発売日: 2017/03/27
- メディア: 単行本
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なによりもケアをひらくシリーズからこれが出ていることに驚きました。
日頃、自己責任がどうこうといってしまいがちなケアワーカーたちを立ち止まらせる一冊になればいいかなと思います。あとは言語学に興味があったので、それを遡上していくのが楽しかった。
6.哲学的な何か、あと科学とか(飲茶)
哲学に切り込む遊びの本、第一冊。
ダグラス・ホフスタッター『ゲーデル、エッシャー、バッハ』に触れていたようないなかったような。哲学的ゾンビ問題とか、結構哲学の中でも数学よりの問題に触れています。分析哲学的ではありますが、現代思想みたいに安易に表象文化論に寄っていかないところに好感が持てる。あ、そうか、タイトルが「あと科学とか」だからか(当たり前だった
7.はじめて考えるときのように―「わかる」ための哲学的道案内(野矢茂樹)
はじめて考えるときのように―「わかる」ための哲学的道案内 (PHP文庫)
- 作者: 野矢茂樹,植田真
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2004/08/01
- メディア: 文庫
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こちらは哲学入門書のなかでも、どちらかというと哲学全体を俯瞰したような感じがあります。いや、前掲書にもパスカルとかはでてきていたと思いますが...こっちは、どちらかといえば大陸哲学も含めた広義の哲学、ですね。
自分にとってのソフィーの世界のような本ですが、こちらのほうがずっと読みやすく、物語でなく、言葉も平易でわかりやすいです。哲学ってなんだろう、と立ち返りたいときにも読める本。
8.勉強の哲学 来たるべきバカのために(千葉雅也)
なんというかいかにも若者向けな安直な本選びみたいになってしまったのですが、これはむしろ自分がドゥルーズを読んできてわからないことが多かったから手に取ったといってもいいです 勉強の哲学それそのものについてはあまり意味はないというか、まあ読みたければ読んでという感じ(そして本書はやっぱり「勉強」に関して、できるにしろできないにしろコンプレックスを抱えた人が読むべきものだと思います)
9.ひとはなぜ服を着るのか(鷲田清一)
臨床哲学も勿論好きではありますが、ことファッションにおいてやはり鷲田先生に優る記述者はいないという印象が自分のなかで強いです。文化の変遷、服がもつ意義、服の触覚がもたらすもの、などなど。「着たい服を着られない」って悩むことありませんか。文化を着ていることに気づいていますか。あなたは性別をどうやって着ていますか。ときどき文化も性別も脱ぎ捨ててしまいたいと、思いませんか。そんなふうに触発される本です。私にとっては、ですけど。
超絶コアなオススメ9選
1.読書について(アルトゥール・ショーペンハウアー)
本を読みまくって読みまくって辿り着いたのがこれだったんですがなんというか頭をぶん殴られる感じでドMにはたまらん1冊。嘘ですごめんなさい。
真剣なほうの感想は読書録読んでください。自分の言葉で語る、知識を頭の中で体系化することについての重要性を改めて思い知らされます。本を読んだだけでは賢くなったとはいえないことの所以がここにある。
2.サインシステム計画学: 公共空間と記号の体系(赤瀬達三)
道路標識とか道案内の写真ばっかり撮っている自分にはすごく・・・よかったです・・・。高いからおすすめは全然できないんですけど、認知機能に対してどんなふうに看板や標識がアプローチしているのかわかってとってもとっても面白いです。
この本読むと、都市を歩くのが楽しくなります!
3.差異と欲望―ブルデュー『ディスタンクシオン』を読む(石井洋二郎)
この本ではじめてピエール・ブルデューという社会学者の名前を知るところとなりました。いや前から知ってはいたのですが、ディスタンクシオンそのものを読むのはあまりにも大変というので、とりあえずとっかかりが欲しくて読んだのです。内容としてはディスタンクシオンのわかりやすい解釈と、それを日本に転じた場合にどのようなことが起こっているかについての叙述なのですが、分厚いわりに気になることが多くてすいすい読んでしまいました。格差社会だからこそ読みたい本。
4.数学的な宇宙 究極の実在の姿を求めて(マックス・テグマーク)
あっすごい、これは全然おすすめできない
というくらいの本なのですが、天体物理とか素粒子物理の話に加えて数学的な次元解釈の本です。私が読んでも大体わからなかったのですが、今理論物理学がどのくらい進んでいるのかざっくり書かれているところもあって通読するとたいへん面白いです。わからなくても面白い本というのは貴重です。あと話がうまいので、時々笑わせてきます。
数学強い人に是非読んでほしい・・・・。
5.生命、エネルギー、進化(ニック・レーン)
すごい、これも全然おすすめできない。いや前掲書よりはましか・・・?!
古細菌の定義について全然知らなかったし、確かに細胞の成り立ちってめっちゃ不思議よなあと思っていた人々に物理・化学・熱力学が襲い掛かる・・・!みたいな感じの本です。 嘘ですもっとまじめです おもしろいです。
阿部公房の第四間氷期が好きな人は是非読んでほしい。なぜ人間は細胞の中に海を閉じ込めているのか、というあの問いへの答えです。
6.Hatch組織論 -3つのパースペクティブ(Mary Jo Hatch)
- 作者: Mary Jo Hatch,大月博司,山口善昭,日野健太
- 出版社/メーカー: 同文舘出版
- 発売日: 2017/02/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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これもなんかもう全然お勧めできないんですけど、自分が組織に馴染めNASAすぎて読みました。めっちゃ面白かったですけどこれは完全に読み物ではなく教科書のたぐいです。人類学とか社会学・教育学・心理学あたりに興味のある人にひじょうにおすすめ。経済学とかでもいいんですかね。書籍自体は経営学の礎となるべく書かれた本です。
7.何も共有していない者たちの共同体(アルフォンソ・リンギス)
ある意味臨床哲学にも近いです。誰にお勧めできるかというと、『死の臨床』に携わる人と、その臨床に興味がある(またはコンプレックスがある)人たち。
8.知覚の哲学入門(ウィリアム・フィッシュ)
- 作者: ウィリアムフィッシュ,William Fish,源河亨,國領佳樹,新川拓哉,山田圭一
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2014/08/31
- メディア: 単行本
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知覚について、現象学に限らず議論の幅をめっちゃ広げてとにかくあらゆる角度から拾うぞ!というやっていきを感じます。認知神経科学的な側面は最後の方に持ってこられているので我々臨床のフレンズは後回しです。けど最初の方に出てくる認知言語・文法構成的なアプローチものすごく面白かったしこれはなんだろう誰におすすめしていいかわからないがまあ読んでくれ。と、句読点を忘れてしまうくらいにはお勧めです。
9.官僚の世界史―腐敗の構造(塩原俊彦)
スティーブン・ピンカー『暴力の人類史』やジャレド・ダイアモンド『文明崩壊』に並んで政治構造の「くずれ」がなぜ起こるのかをきめ細かく書かれた本。というかきめ細かすぎる。
歴史的な部分は自分はもう流し読んでしまったんですが、最後の方にある現代の発展途上国の腐敗の構造とか、のちの展望については大体自分も読んできた本と思想がベースになっていて面白かったです。というか参考文献にあまりにも自分が好きな本が入りすぎていたので借りたのですが。
でも結構攻めた思想です。口に合わない人は合わないかも。