毒素感傷文

院生生活とか、読書の感想とかその他とか

100冊読破 4周目(91-100)

1.2.ニクラス・ルーマン講義録:システム理論入門<1>社会理論入門<2>(ディルク・ベッカー)

システム理論入門―ニクラス・ルーマン講義録〈1〉 (ニクラス・ルーマン講義録 1)

システム理論入門―ニクラス・ルーマン講義録〈1〉 (ニクラス・ルーマン講義録 1)

 

 

社会理論入門―ニクラス・ルーマン講義録〈2〉 (ニクラス・ルーマン講義録 2)

社会理論入門―ニクラス・ルーマン講義録〈2〉 (ニクラス・ルーマン講義録 2)

 

わたしが望んでおりますのは、この激動の時代にあって、みなさんが数々の世界的重大事件から少しばかり身を引き離すことができるようなプライベートな孤島を確保しうることです。ただしそれは世界へ参与していくことを排するわけではありません。

公共の哲学から社会学社会心理学)への架け橋を作ったのがルーマンのように見えてくる本です。いやブルデュー からはあまりこういう気配を感じないというだけですが。コミュニケーションのオートポイエーシス(自己生産)に何度も着目して過去の言説に耳を傾けつつもジラールのような文化的な方面からも力を借りつつ考えるの、講義録形式で読めるのよかったです。『社会システム理論』はなにもついていけなかったので。

社会の意味論として発展した年代である理由、やはりコミュニケーションの複雑性とメタ性が明らかになったときだからなのだろうという気がひしひしとします。わたしがシンボリックにあまり親和性をもてなかった理由もなんとなくみえてきた。理論社会学の分類は大まかに分けて構造系と意味系に分けることができてしまうのですが、こと意味系に分類されるシンボリックはたとえばコミュニケーションにおいてその全体構造の解釈があまり書かれていないとか、いてもそれ以上の言及が少なかったりするように感じます。もっとも、ルーマンの理論がわかりづらい点もこのあたりにある。そもそも、今にして公共の哲学と呼ばれる分野ととても親和性が高いのです。つまり社会学がそれまで論じてこなかった部分に多く言及し、また概念を取り入れて注釈をつけるからややこしい。

ルーマンが論じているのは構造の中のダイナミクスで、いま組織論や経営理論でよく指摘されている部分(の冒頭の一翼)を担っていると感じます。この本を読むにも、恐らくあの分厚い『社会システム理論』上下巻が必要だったのでしょうがあいにくわたしは返してしまっていたのでした…ハーバーマスとの間に生じた論争をわたしはあまり知らんのですが、おそらくハーバーマスはこのダイナミズムに関してはあまり言及していないからでは、という気がします。まあハーバーマスも大昔に読んだ『公共性の構造転換』くらいしか知らないのですが。この辺りの議論についてはミード、ジンメル、デュルケム、あとはスペンサー=ブラウン、ハーバーマスあたりと相互参照する必要があると思いますが、わたしは専門家ではないので割愛させていただきたい…さすがに荷が勝ちます。

あと面白かったのは言語システムの意味論でちゃんとデリダに言及していたことです!言語の意味に関する執着(執着て)はデリダに勝るものはいまのところ自分の中には存在しないのです。言語学のなかに勿論もっと厳密なものは存在しますが、コミュニケーションに与える影響を吟味することにおいてはデリダを外すことはできないでしょう。とくにマス=コミュニケーションや電子メディアの台頭の場面で、コミュニケーションに応ずるか否かに関する検討の節ではきちんと参照されていました。けど時間概念の理解などに関してはベルクソンの考察の域を出ていないようにも思います。読み込めてはいないのでちょっと疑問符の残る結末ですみません。

 

3.MiNDー心の哲学ジョン・サール

マインド―心の哲学

マインド―心の哲学

 

 サールの本は『行為と合理性』以降読んでいませんでしたがこの方は心の哲学読んでいると必ずと言っていいほど名前がでてくるのでいつか入門的な本を読みたいと思っていました。本書がそれです。わたしは心の哲学の諸問題をポール・チャーチランドダニエル・デネット、アントニオ・ダマシオ辺りから入ったのでどちらかといえば神経哲学寄りと言えるのですが、本書はそういう認知科学寄りの流れと哲学界におけるデカルトからの流れをひとつひとつ紹介して打破していく構成になっております。こういう本は何を何回読んでもいいと思います 少なくとも自分はそう思っているだけなのですが、論理的結論と実際の認識がズレている場合はこういう本を何度も読んで自分がどのパターンの誤謬で躓いているかを考えるのです。考えたからと言って我が言葉で結論が出るとは限りませんが。ウィリアム・フィッシュの知覚の哲学入門を読書会でゆっくり進めているのですが、最初の方のセンスデータ説がいかにして否定されるかはこの本でも読み返せるのでよくなされる議論はおさらいできるなあと思います。

 

4.それをお金で買いますかー市場主義の限界(マイケル・サンデル

それをお金で買いますか――市場主義の限界

それをお金で買いますか――市場主義の限界

 

原題はwhat money can't buy(何がお金で買えないか)。たとえばリスク商品への投資。他人の保険を買い取ることによって余命を(つまり期待される寿命が短ければ短いほど利益が出る)見積もることになる、マネーゲームを利用してスポーツチームの財源を確保すること。他人の体を広告にすること。保険に関しては個人情報が個人の裁量範囲を出るからだめ、というのでブロックできるとは思いますが、なるほど『そんなものを売りたがる人がいるのか』というのは日本にもありますね。JKリフレとか…。あと生命保険の考え方は基本的にわたしの中で経済学というより法や政策の範囲なのでサンクコストとして考えられており、転じて余命を売る行為になるシステムは完全に『なるほど』でした。ただ副題にもあるthe moral limits of marketsはサミュエル・ボウルズの『モラル・エコノミー』の方が解説として優秀だと思います。「それをお金で~」、実はその成立としてはサンデル氏の有名な著書である『これからの「正義」の話をしよう』よりも古いとのことですが、モラルやインセンティブといった思考はむしろ『正義』の方が成熟しているようにも感じます。強いて利点を挙げるとすればやはり読みやすいことです。大事ですね。

 

5.愛する人を所有するということ(浅見克彦) 

愛する人を所有するということ (青弓社ライブラリー)

愛する人を所有するということ (青弓社ライブラリー)

 

著者は思想史の方のようです。2001年出版。近現代の小説から具体的引用を、哲学からはその抽象を借りて話題を進めていきます。近代の思想ではロラン・バルト『恋愛のディスクール・断章』、ジャン=ポール・サルトル存在と無』、エーリッヒ・フロム、ヴィクトール・E・フランクルから。遠くはプラトン『饗宴』、アリストテレス『二コマコス倫理学』も。デカルト省察・情念論』もありましたね。ディヴィッド・ヒュームからも。つまり大体私は了解済みの話でした。ただ、そう、むすび近くで浜崎あゆみの初期〜中期の曲の歌詞が多く引用されていたのはよかったです。あの人の表現する『愛』というもの、時代の象徴だと自分は思っている。もっとも、私より年代は少し上なのですが…。基本的に徳によるもの(博愛)ではなく恋愛によるもの(性愛)を中心に扱うために、これを読んだら面白いと思う人は若い人にはほどほどにいらっしゃると思うのです。

 

6.ネガティブな感情が成功を呼ぶ(ロバート・ビスワス=ディーナー、トッド・カシュダン)

ネガティブな感情が成功を呼ぶ

ネガティブな感情が成功を呼ぶ

  • 作者: ロバート・ビスワス=ディーナー,トッド・カシュダン,高橋由紀子
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2015/06/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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『共感の罠』みたいな感じで面白いですねこういうの。ポジティブシンキングやマインドフルネスの注意すべき点を指摘した上で、『全体性(ホールネス)』に着目します。わかりやすいメンタルヘルスのコントロール方法でもあると思います。この本、『幸福を希求する人ほど幸福度は低い』とか色々結果出していて面白かったです。所属する文化による幸福に対する考え方の違いも有意差出ていましたしね。

 

7.ライプニッツーなぜ私は世界にひとりしかいないのか(山内志朗

このシリーズ、本が小さくまとまっていて読みやすい。おすすめかも知れません、全16冊だそう。フッサール、カント、クリプキドゥルーズ、ディヴィッドソンあたりが名を連ねておりました。このシリーズで他のも読みたいぞ。基本的にはモナドの概念をひもとくために用意されており、モナドを「他でもないわたし」に置き換えて解釈をすすめていきます。前読んだ世界思想社の『学ぶ人のために』シリーズのライプニッツとはまた異なる、というかかなり噛み砕いて書かれています。私はわりと好きです。

ライプニッツを中心として心の哲学現象学を考えていくのが結構楽しいので、こういう入門書を使って理解を深めていきたいと思ったりします

 

8.オンラインデートで学ぶ経済学(ポール・オイヤー)

オンラインデートで学ぶ経済学

オンラインデートで学ぶ経済学

 

これはハチャメチャに面白かったので別記事書こうと思います。

★離婚協議は早く終わらせよう。
★異性にお金を持っていることをアピールしたければ、目の前で札束に火をつけよう。

★デートサイトで長期間にわたって恋人を探している人は避けるのが賢明だ。

 

9.幸福はなぜ哲学の問題になるのか(青山拓央) 

幸福はなぜ哲学の問題になるのか (homo viator)

幸福はなぜ哲学の問題になるのか (homo viator)

 

本書は時間論を専門にする著者が手掛けられたもの。幸福とは何か?幸福になるにはどうしたらよいか?は基本的な命題としつつ、「幸福とは求めるべきものなのか?」まで踏み込んだ面白い本です。アランやラッセルの「幸福論」に踏み込みつつも、アリストテレスの二コマコス倫理学まで遡ったりします。結構前後に読んだ本と内容もかぶっていて面白かったです、「哲学的なものの考え方」の練習として「幸福とはなにか?」という先の問いは、大きなテーマですしいろんな人が論じているので取っ組み合って面白がれます。

 

10.宗教哲学論考ーヴィトゲンシュタイン脳科学・シュッツ(星川啓慈)

宗教哲学論考――ウィトゲンシュタイン・脳科学・シュッツ

宗教哲学論考――ウィトゲンシュタイン・脳科学・シュッツ

 

意外な本でした。若年期のヴィトゲンシュタインライフヒストリーと論考の内容を照らし合わせた本に、彼の宗教観とそれを取り巻く宗教の行為性についてという感じですね。デネットの「解明される宗教」のような感じではまったくないです。否定神学による祈りの肯定。「ヴィトゲンシュタイン ネクタイをしない哲学者」という本を以前読みましたが、あちらよりもさらにヴィトゲンシュタインの戦時期に感じた感性を『論考』と比較考察したような本ですね。