毒素感傷文

院生生活とか、読書の感想とかその他とか

100冊読破7周目(91-100)

1.謎の独立国家ソマリランド高野秀行

(1つ前の記事『もっと読みたい人のための~』とかぶっちゃったので同じ内容です)

ソマリランドが意味するところがなんなのかは本編を読むと十二分にわかるんですが、要するに北部ソマリアの独立宣言済み未承認国家。でも南部ソマリア(国家としてはこちらが承認)の方が治安は酷くて、なんで民主主義政権が北で維持されてるのかとかそんな話を実際に現地に行って調べる話です。著者のものすごいバイタリティです。

現地の人のパーソナリティ(いわゆる「国民性格」的な)が面白くて、通話料が安い&資料に載ってない話が多いからととにかく電話でその場で問題即解決する、ただし全然愛想はないし拝金主義、と全然「いわゆる」日本人とは合いそうになくて終始笑いが込み上げます。2009・2011年の取材が元なので、現状どうなのかはわからないけれども、ソマリアの内戦の話は基本的に氏族間紛争がガッツリ絡む上に解決方法も氏族間で行われてるから普通に叙述するだけでは理解できないし意図を理解できるような学術文献もないよっていうのがなかなか面白かったです。外から見えないものがある…

現地の人と打ち解けるにはカート(覚醒作用のある植物)をキメまくってハイにならないといけないらしく、ガンギマリで全然知らない国のセンシティブな情報集めないといけないの怖すぎではと思うんですけれども、それでしか得られない脳汁みたいなのありそう…とか思ってしまいました。めっちゃ分厚いですけれどテンポが良いのでスイスイ読めます。

 

 

 

2.理由と人格: 非人格性の倫理へ(デレク・パーフィット

アッ訳...読みにくい...?と思いながら読みました大変だった。物理的にも経済的にも痛い1冊。

まったく合理的でない行動をするときのほうが結果的にマシな帰結となる場合があるー合理性が非合理にはたらく場合のふるまいとか、理由章は理論じゃなくて思考実験的な事例が出てくるとようやく腑に落ちるんですけれど理論部分「どうしてその結論になるの(反対にならないか?)」みたいなところがいくつかあり、各々ちゃんと読む必要がありそうです。

あと人格パートについては人格の同一性(特に時間や状況による選好の変化とか)のあたりが個人的には縁の深い分野なので、臨床倫理的には人格パートから派生したその後の議論とかを追うとよさそうと思いました。哲学プロパーの人に最新の道徳とか倫理の話教えてもらいてえ(自分で読め)。

 

 

3.灘校〜なぜ「日本一」であり続けるのか〜(橘木俊詔

面白いけど新書なので著者の主観モリモリですもちろん(?)

最後の方で、「ここまで過熱した激しい能力主義少子化につれてやや緩和するのではないか」という見立てがあったのですが、現状ではまだ過熱しています(14年前の書籍)。ところどころに滲む「能力主義を個人の利益に誘導すること」への反抗みたいな姿勢はすごく好きだなと思います。私もわりとそういうスタイル(研究であれ教育であれ一定の能力を有する者は社会還元の姿勢を持つべきという考え)をもっているので。もしかすると、国公立志向の人が多いことの一因かもなあ。関係ないか。

この本を読んだ理由、私が超学歴(学校歴)厨なのではなくて、純粋にTLに卒業生がちらほらいるだけでなくもっと身近にもおり、こういうところにおる人がどういう薫陶を受けてきたのかっていうのは結構不思議に思うところがあったんですよ。あと「制帽だけ実は残ってる」ってのをこないだ知ってめちゃ笑いました。

 

 

4.コミュニケイション的行為の理論 上(ユルゲン・ハーバーマス

3巻編成なのでまた全部読了してから書こうかと思いますが、訳者まえがきの部分で「本人に吃音があったからコミュニケーションの哲学に興味をもったのでは」みたいなくだりはちょっといけ好かないというかあまりよくない表現のような気がした。実際にそういう動機もなくはなかったのかもしれないけれども、ギリギリ憶測で書いてよい範囲ではないというか...

そこはそれとして、ヴェーバーピアジェといった当時の理論がガッツリ出てきて、ぶっちゃけ言葉の定義くらいしか知らない身としては前提知識が足らんのだろうなという感じ。

 

 

 

5.恐怖の哲学 ホラーで人間を読む(戸田山和久

戸田山先生の単著をはじめて読了しました。情動の哲学の中でも、「ホラーを楽しむとはどういうことか?」を哲学史的な観点と心理学・生理学的な観点から統合した本。面白いと思います。

「ホラーを楽しむ」って人間に備わったかなり高度な機能ですよねというのがつまびらかになっていくのが楽しかったです。

基本的に「情動の哲学は現在の生理学の発展に背くようなものではないよ、意識のハードプロブレムに共に取り組みましょうね」という姿勢なので、自分のスタイルと合致していたのもありそこも読みやすさと受け入れやすさの一因だったかと。

 

 

6.完全版 シアーズ博士夫妻のベビーブック(ウィリアム・シアーズ マーサ・シアーズ

突然出てくる育児書。

米国の小児科医が書いたものなので、米国の育児の定番スタイルに対するコメントという感じで日本とはちょっと違った事情のものもあります(訳注で補填されている)。

アタッチメント・ペアレンティング推奨の本で、とりあえず赤ちゃんは抱っこしとけ過激派。あと離乳食なんかに関しては別の本と真逆のことが書かれていたりして、この本を鵜呑みにするのはちょっと微妙かなという箇所もアリ。

網羅的なので、1人目の育児がこの本の対象期間を過ぎるくらいになって読んでむしろちょうどよかったような気もします。

 

 

7.倫理コンサルテーションハンドブック(竹下啓 神谷惠子 長尾式子 三浦靖彦)

臨床倫理コンサルテーション組織を院内で立ち上げるにはどうしたらいいかみたいな本です。急に自分の分野の本が出てくる。

国内で臨床倫理コンサルテーションについてまとまった本があまりないので、こちらが入門として良いのではないでしょうか。海外の訳本だとミカ・ヘスター他『病院倫理委員会と倫理コンサルテーション』とかですね(本書の中からも推薦されていました)。

 

 

8.正解を目指さない⁈意思決定⇄支援: 人生最終段階の話し合い(阿部泰之)

緩和ケアの医師によるACP(Advance care planning)の本。臨床の先生ではあるものの、医療と馴染みの深い規範倫理やジョンセンの四分割法についてもバックグラウンドからすごく丁寧に書かれていました。

内容もぎゅっとまとまっていて小難しい箇所は他所に譲るという「わかりやすさ重視」スタイルなので臨床の人向けのACP入門書という感じです。

 

 

 

9.方法序説(ルネ・デカルト

たまたま実家にあったので回収してきて読みました。

よく「大学生が読むべき本100選」みたいなところに入っているので読んでみたかったんですが、「自分はこれから分析的な哲学を頑張りますね」みたいな内容でなんか意外でした...(なんだと思っていたんだろうか)。

 

 

 

10.看護が見える患者に見せる看護記録を書こう(石綿啓子)

こちらも突然の自分の分野の話。「倫理面に配慮した表現」これがねえ難しいんですよね、と思いつつ読みました。

とりあえずOに「Oとして」書きにくい情報はSに書く派です私は。