1.慟哭のハイチ(佐藤文則―現代史と庶民の生活)
2007年に出版されているのでその後のハイチ沖の地震のことはもちろん触れられていません。この前読んだ『ルワンダ中央銀行総裁日記』の中でルワンダが政治の腐敗のない国として触れられていたことを思うと、ハイチは腐敗のある国として(自分の中で)有名でした。ハイチの政治動乱とその中で生きる市井のひとびとの生活と街の様子、政治への期待と政権交代、動乱の様子が克明に描かれています。
2.UNBUILT(磯崎新)
この本を読んだ直後に磯崎氏が亡くなられたことを知りました。
建築家として非常に著名な磯崎氏が、「採用されなかった建築計画」や「成立しない都市計画(理論)」などについて語る本です。他の人の評論の部分と対談の両方あるんですが、ぶっちゃけ最初の方の評論が意味不明です(私が悪いのかもしれない)。
3.脳(ブレイン)バンク(加藤忠文 ブレインバンク委員会)
面白かったです。新書でこのボリュームは買うしかない(?)
死後脳研究のための献脳とその蓄積に関する話で、脳の収集にまつわる苦労話(???)から最新の脳研究(精神疾患の生物学的側面の研究)についてわかりやすく書かれています。箇所によっては知識が必要ですが、精神疾患に興味のある医療従事者や一般の人でも(生物学・医学の基礎的知識があればなおのこと)楽しく読めると思います。あと「自殺」に限った生物学的解析ってできるんだなってちょっと驚きました(無知)。
4.洋酒を読む本(おおぜきあきら)
完全に同人誌でした。30年以上前の本なので今はまた状況も変わっていることと思いますが、「シーンに応じたお酒」ってありますよね。とはいえ「社交に使う」お酒は苦手だな… 特にウィスキーとかは。来歴が書いてあるのは面白かったです。
5.ノーブラZINE(かみのけモツレク)
ノーブラZINEはこちらでお買い求めいただけます。
— かみのけモツレク (@decoi0222) 2022年8月29日
🌉大阪肥後橋@calobookshop(店頭・オンライン
🎡大阪枚方@pontsukudo(店頭・オンライン)
🦌奈良@cojicabooks内山の上の本棚店頭
ブクログに登録がないタイプの読書(?)をしました。本ではありませんしその辺の本屋にも図書館にもないという点において希少さは何にも勝るような気がします。
作者はかみのけモツレク先輩@decoi0222です。
余談ですが私の人生の中でこの先輩の手書き字は1、2を争うツボフォントです。
タイトルは今は一貫して『ノーブラZINE』です。以前から発刊(?)されていることは存じ上げていたのですが、私自身特に下着に強い不自由を感じていなかったためか手に取るまでに長く時間がかかりました。そして特に感じるところのなかった私にも下着について悩むときがきました、産褥期でした。
産前のサイズも確かに妊娠前に較べると変わるのですが、それはまあ大体想定の範囲内くらいです。問題は産後です。まず乳腺が肥大して痛みを伴うのでそもそも下着をつけていられる状態ではなく、しかも飲んでいる方と反対側から垂れてくる(下着でこれを押さえると痛い)のをタオルに吸わせたら人間の母乳ってかなり生臭いので、まともに起き上がれる体調でもないうえに寝不足で俯いての世話をひっきりなしにしている自分の周りに生乾きの雑巾みたいな臭いのタオルが常にあって地獄でした。そこまで酷いのはほんの1-2ヶ月なんですが、体感の長いこと。そしてそんな頃には案外無縁だった乳腺炎に先月なってしまって、外来に駆け込んで処置後に言われたのは、「授乳間隔を空けすぎないで下さい(←わかる)」「水分をしっかり摂って下さい(←わかる)」「サポート力のあるブラをしてください(←わかる…わかるがどうすれば)」ということでした。かくして私もこの1年半ほど、下着どうすんだこれ?みたいなことを考え続けたのでこのペーパーを手に取る権利があるように思われました。権利ってなんだ。でもなんか、興味本位では手に取りにくい感じってありませんか?ありませんか。
全然ペーパーの中身についての感想になっていませんが、このペーパー、読んでそれについてどうこう(もさることながら)するより自分が持っていた課題についても考える方が面白いように思えたのです。多分そうやって楽しむ人がいるからこそナンバーが重ねられてきたのだと思います。先輩はマジで昔から文才があって、淡々としている日々の中に入っているセルフツッコミの模様や出来事の叙述・解釈が実に面白いです。ブログを書かれているので、そちらで興味を持たれたらお買い求めいただくとよいかもしれません。
余談ですがなんとなく郵送の手間やなんやとそういうことを考えてしまうと自分で足を運ぶ方が良いような気がして、実店舗に買い求めに伺いました(肥後橋駅近く)。ベビーカーでオラオラと乗り込んで5秒で発見して2秒で会計して帰りました。以上です。
6.アウシュヴィッツの図書係(アントニオ・G・イトゥルベ)
ホロコーストにまつわる子どもの手記といえば圧倒的に有名な『アンネの日記』がありますが、こちらは実話を元にした物語。のちに『塗られた壁』なる作品の作者の妻となるひとが主人公です。たった8冊、見つかれば処刑の「図書館」についての話です。
収容所での人びとの役割、振る舞いなど克明に描かれています。『アンネの日記』が収容されるまでのひとの物語だとしたら、こちらは収容所で生き延びる物語なので、ある種双璧ともいえるのではないでしょうか。寡聞にして私はこの本を知らなかったのですが、実話をもとにしたフィクションの中では相当に精度の高い部類かと思います。100冊の中でもお勧めできる物語です。
そういえば、小説のスタイルをとった書物久々に読んだ気がする。と思ったけど直近には『百年の孤独』がありました。それ以前はもうわからないな…あ『チャンドス卿の手紙』でした。
7.別冊情況 カント没後200年特集(2004年)
復刻版情況第2回配本(全5冊セット): 第5~8巻・別冊1 | 情況編集委員会 |本 | 通販 | Amazon
絶版になってしまっているのでリンクが張れずこのようなことになってしまいました。カントの形而上学・倫理学・公共哲学について、寄稿による3部構成となっています。
形而上学→マジでわからん、倫理学→やはり人間の理性信じられすぎでは、公共哲学→コスモポリタニズムの立場だったのを全然知らなかった、『永遠平和のために』の概説があってよかったです。
8.「史記」の人物学(守屋洋)
群雄割拠の時代に各々の国の王に謁見して策を奏上するという仕組み、面白いですよね。そうして名を揚げた人びとの一面をコミカルに描いています。キャラクターが立っているといえばまあそうなのですが、あまり学べることがなかったのが無念です。
9.モードの迷宮(鷲田清一)
若かりし日の鷲田氏の著作。本拠地(?)であるところのメルロ=ポンティ、ロラン・バルトなど用いつつ服飾のコード化について論じています。「脱・性的」を極めた結果その僅かな余白(例えば着物のくるぶし、中世から近代までのクリノリンスカートとコルセットなど)がかえって「性的」コードとして機能してしまい、検閲の目が必要になるーーというくだりは現在もそうであるなあと思います。常にそこはいたちごっこですよね。
10.おおきな木(シェル・シルヴァスタイン)
原題は”The Giving Tree”だそうです。
私自身が幼少期に気に入っていた絵本でしたが、自分で購入しました。なんだかこう、「無償の母性」感がやはり溢れていてそういう部分でウッとならなくもないですが、それ以上に「木の無力さ」が感じられたのは自分が大人になったからのような気がします。
あと、今まで知らなかったんですが翻訳が村上春樹ですね。
シルヴァスタインの絵本は『ぼくを探しに』も有名なので読んでみたいものです。
おわりに
今回の10冊は早かった、というか前回10冊の記事を延ばし過ぎていて今回が短かったと言うべきか。ライトな本(絵本や冊子も入れましたしね)が多いのもあるかもしれません。
リハビリをしている間に今年度が終わりそうです。早い。