1.FACTFULNESS(Hans Rosling, Ola Rosling)
めちゃくちゃ珍しく(初めて?)原著を読みました。邦訳が出たとき少し有名になったのでご存じの方もおられるかと思います。
先進国で教育を受けた人たちの貧困に対する先入観、誤読ってめちゃ多いよね?ちゃんと見よ?という話。章ごとにまとめもあってとても読みやすいです。なんというか、入試に使われそうな文章でした(失礼)。
しかし、「最貧困国の衛生状況は19世紀後半の先進国と同じくらい」とかそういうの、「現代なんだからさあ…」みたいな気持ちにはなりますね。物差しをたくさん持つことは大切だと思うんですが、みんな現代に生きているので…と感じる箇所がありました。
2.村上春樹、河合隼雄に会いにいく(村上春樹・河合隼雄)
なかなか面白かったです。対談録ですが、お互いの考えていることが上下に注釈で書かれていて、そのときどんなつもりで言ったのかとか、会話の流れで詳細は端折ったけどどんな背景があったかとか書かれています。
個人的には、村上春樹がつけていた注釈の「夫婦とは補い合うものではなくて鏡のようなもので、自分の欠点が見えること。相手が補ってくれるのではなく自分で向き合って埋めていかなければならない」みたい部分がすごく納得できて、好きでした。
3.アリストテレス入門(山口義久)
アリストテレスの「◯◯主義者」と言われがちなところ実際どうなん?みたいなところを検証しつつ、各代表書籍と概念を紹介していく本。珍しく(?)「入門」と名のつく本の中でその名に相応しい内容だと思います。
図書館で借りたのですが、著者が寄贈された本だったようで、ご本人直筆のメッセージがあって衝撃を受けました。
4.櫻の樹の下には瓦礫が埋まっている。(村上龍)
「俺に若者を語らせんなよ」というスタイルなのに若者の話を書いてくれる村上龍、わりと好き。
5.忘れられた日本人(宮本常一)
この本をとある人が紹介していた数日後(翌日だったかも)、図書館で出会ったのですぐさま借りました。
農村・漁村の人びとの暮らしぶりやソーシャルネットワークについて詳らかに書かれていてとてもよかったです。
個人的には、村の決め事をするときに直接民主制が採用されているのに驚きました。なんでもない話に脱線したりしつつ、なんとか上手く納まるまでに数日を要することもしばしばだとか。現代ではとてもできないことですが、「田舎」の良し悪しでなくこうした文化を知ることは土地のルーツを知る意味で重要なプロセスだと感じます。何よりそうした寄り合いに参加できる宮本氏の根気強さ、人びとへの丁寧さがなければできなかった調査だと思いますし、ただただ敬服するばかりです。
6.誤植読本(高橋輝次)
とんでもねえ誤植をした人たちの阿鼻叫喚の話。今と違って文字組みをしないといけない時代のものもあるので、大変だったろうなと…。あと個人的にすごいなと思ったのは、専門的知識のない印刷所の人がフランス語の綴りの間違いを指摘したという話です。職人の勘というやつでお気づきになったそうですが、そんなふうに働くか…と人間の脳の可能性に思いを馳せました。
7.すごい言い訳!二股疑惑をかけられた龍之介、税を誤魔化そうとした漱石(中川越)
酔ってウザ絡みしてた中原中也が自分のことを「ひとりでカーニバルをやってた男」と表現していてめちゃくちゃウケてしまった。
8.医療再生は可能か(川渕孝一)
経済学側から見た話なので、医療者としては既知の話が多い。あと2000年代発刊なので情報が古いです。日本の医療制度のねじれの概観を知るには軽くて良いかも。
9.しんがりの思想 ー反リーダーシップ論ー(鷲田清一)
ちょうど先に挙げた宮本常一の本を読んだところだったので、「先導する人」ではなく「結論を引き出す人」の重要性も浮かび上がったところでした。その能力のことを「リーダーシップ」と呼ぶ人は少ないですよね。
10.捏造される歴史(ロナルド・フリッツェ)
調査するのめちゃくちゃ面倒だっただろうな…と思うほどきっちりした本でした。
疑似科学批判の本は最近よく見るようになりましたが、擬似歴史を批判するのはかなり難しい。完全なるインチキではなく、まともそうな議論をチェリーピッキングしやすいからだとは思うのですが、話を広めた人の生い立ちや思想まで追っていて本当に執念の調査でした。著者本人が、「このテーマで書こうとしたことを後悔した」みたいなことを書いていて少し笑ってしまいました。
おわりに
10冊読むのにかなり時間がかかったのは、最初の1冊が原著だったからでした。リーディングの練習にちょうど良い題材、ボリューム、難易度でした。院試受ける人とか良いのではないでしょうか。
そして読書期間はまる4ヶ月くらいかかっていました。この間、私は転職をしたりしていたのですが、だんだん読書の時間を取るのが難しくなってきて切ないものがあります。それから、図書館の都合上あまりお硬い本を置いていないのですが、なんだかんだで自分は学術書の入門くらいのものが好きなのだなあとしみじみ思っています。学問に誠実かといわれるとそこまでではないのが痛いところではありますが、自宅の積読もひどいので適宜進めていこうと思っています。