毒素感傷文

どうしようもなく感銘を受けてしまう日々のあれこれについて。

100冊読破 5周目(61-70)

1.メルロ=ポンティ―可逆性(鷲田清一

メルロ=ポンティ (現代思想の冒険者たちSelect)

メルロ=ポンティ (現代思想の冒険者たちSelect)

 

メルロ=ポンティの哲学はケアにまつわる人ならわかることがたくさんあると思うし、それでいてあらゆる面で応用分野というわけでもなくあくまで哲学の流れに基づいて認知的・知覚的なことを説明してくれるので非常に馴染みがよい。そういう意味では鷲田清一氏本人の言説は雑味が多い。

また、鷲田氏は本文のなかで「他の哲学者については語ることがあるが、自分がもっとも研究してきたメルロ=ポンティについて語れることは少ない」とも述べている。その人生について残っている資料は少ないそうだが、幼少期から青年期までの思想の関わり・激動の時代における立ち位置なども序盤で紹介されている。

 

フッサール現象学を学んだとはあるが、現象学的ではない(どちらかといえば実存主義にも近い)その概念の展開も改めて学び直しとしてよいと思う。フッサールは今後読む予定があるので、比較して楽しんでみたくもある。

 

2.アメリカ大都市の死と生(ジェイン・ジェイコブズ

アメリカ大都市の死と生

アメリカ大都市の死と生

 

ニューヨークのある区画に住んでいた人間が、当時の大規模な都市開発を辛辣に批判した文章。

 

これに関してはちょうど映画が上映されていたので観てきました。

本書の中には著作権の関係上、図面が含まれていないので、映画で使われた映像や図が大変助けになります。

ヤン・ゲール「人間の街」、エドワード・ホール「かくれた次元」などがこれを参照している理由がよくわかります。2年前に読んでおくべきだったかもしれないと思うが、今読めばむしろ安易に迎合せず批判的な視点で読めてそれはそれでよかったかもしれない。前半部分は些か冗長でありますが。あくまで「市井のひと」による本として、ここまで後世に学術的にも価値あるものとして残るのなかなかないでしょう。本人はジャーナリストであり、アカデミアにいることを嫌った人だったようです。実際招聘なとの話もお断りしたそうな。

結構読みづらいのですが、なぜ読みにくいかというと彼女がそもそも論述のために本書を書いていないからで、全部で22から成る都市への言及は当時行われた都市計画に対する批判と、都市の構成要素の記述でてきているから。読むには疲れるが、喋りを聴くにはいい文章だと思います。


3.ヘーゲル現代社会(寄川条路)

ヘーゲルと現代社会

ヘーゲルと現代社会

 

チャールズ・テイラーによる「ヘーゲルと近代社会」のもじりかしらと思いますが、この著者による「ヘーゲル現代思想」の続編でもある解釈本です。説明ではない。同著者の入門本があるのですがそちらは読んだことないです。

面白かったのは4-5章。4章は悲劇「アンチゴーヌ」をテーマに、神学における女性の権利と人倫における権利、また罪ではあるが処罰にはならないことについて、処罰を加えた場合の社会的影響を論じる。これちょっと面白いなおもいましたね、即応用は難しいところがありますけど。そして5章は今話題のマルクス・ガブリエルのヘーゲル批判とその根拠を解説したうえで、むしろガブリエル氏の論の展開がヘーゲルの哲学体系に準じているところを指摘する。勿論全部ではないけれども。新実在論、思弁的実在論もうちょっとやっていきたいので足がかりとしてよかったかなと思います


4.生物圏の形而上学ー宇宙・ヒト・微生物ー(長沼毅)

生物圏の形而上学 ―宇宙・ヒト・微生物―

生物圏の形而上学 ―宇宙・ヒト・微生物―

 

あとがきにもあったが、一般人向けの本と学術書のあいだを目指した本。多分Twitterで仲良くしていただいている方に1年ほど前にオススメされたのである。確かに読みやすい。高校生程度の生物の知識があれば読める。一部の人類学、環境、微生物、生理学とかの知識があるとなお良い。形而上学とあるものの、日々バリバリの形而上学を読んでは心折れている身としては本書はむしろ仮説形成(アブダクション)の話だと思った。極限環境微生物についてはニック・レーン「生命・エネルギー・進化」を読んでいるとそんなに目新しいものはない。霊長類の歴史も通説になってきたなと思うところをわかりやすく書かれている。自分が知らなかったのは、「微生物はなぜ小さいか?」ということ。9章の最小サイズの微生物の系統を発見して、あまりに小さいゆえにRNAの欠損があるよみたいな話が出てきます 全然知らなかったです。オススメ本です。


5.フッサール〜心は世界にどうつながっているのか(門脇俊介

フッサール ~心は世界にどうつながっているのか (シリーズ・哲学のエッセンス)

フッサール ~心は世界にどうつながっているのか (シリーズ・哲学のエッセンス)

 

フッサールを理解するためにフッサールを読むのは超遠回りということを明確に実感した…。

論理学研究の内容についてかなりページを割いて説明されていたんだが、フッサールが意味論的にかなり重要なポジションにいるのこれでやっと理解した感じだしフレーゲとの対比で書かれているのもなるほどといった感じだ。メルロ=ポンティと全然違うことない?と思うのは、メルロ=ポンティが今で言う行動主義的な心理学から志向性を観察しているのに対してフッサールは言語の意味からその発露をたどっている感じがした、比べるようなものでもないのだと思うがアプローチが全然違う。

とはいえフッサールが論理学研究を提出したのはフロイト全盛期(フロイトが「日常の精神病理学」を出したのと同じ年)なので、心理学的な部分に関しては見方が違って当然かもしれない。

 

6.「待つ」ということ(鷲田清一

「待つ」ということ (角川選書)

「待つ」ということ (角川選書)

 

多分この文章を、高校の時に読んだことがある。全部ではないけど、現代文の評論としてか。ただ今にしてみれば結構粗雑な文章が続くところもあって、「メルロ=ポンティ」とかと比べるとおざなりである。目が肥えてしまった。

 

7.明日の田園都市(エペネザー・ハワード)

新訳 明日の田園都市

新訳 明日の田園都市

 

100年前のイギリスの都市計画と都市経済の本。当時のイギリスの世相とか公衆衛生を反映している。今参考になるかと言われるとそのまま参考にはならないのだが、考え方の一助にはなると思う。過密をきらって都市郊外を効果的に構築する方法としての「田園都市」なのだけど、そこは置いといてもいい。

都市の歳入の確保と歳出については、多分いま日本の地方(地方都市ではなく地方都市周縁)で自治体単位でなく経済活動が生まれる範囲内でも使える考え方だろうなあと思うんですよ。新しく構築するんじゃなくて既存のものの流用の仕方という意味でですけど。この本を2年前から読みたいと思っていて、先般映画まで観たジェイン・ジェイコブズ「ニューヨーク アメリカ大都市の死と生」で盛大に批判(批難)されていたためにかえって読む気が強まったほどなのですが、彼女にそこまで悪し様に言われるような内容ではないと思います。訳者もそう書いていましたが。

何が問題であるかというと、本書の中では過密がすべての悪であり、それを解消すれば経済も治安も公衆衛生も軒並み(過密状態よりは)改善するように書かれていることです。そもそもスラムは解体すればよいというものでも、地価が安定すれば解消するものでもないということは明白です。小規模(2-3万人)の都市の経済的・福祉的メリットを述べるのが本書の目的なのですが、たしかにこの公衆衛生や治安の問題はそう簡単ではないので(往時に較べればマシかもしれなくても)ちょっとなあと思うところはありました。あと移住というか新設に伴う破壊のダメージも論じられていません。もちろんジェイコブズのいうこともかなり不適切なところはあり、また本書の目的を完全に理解していないなと思うところはあります。この計画の評価をするには、実際にレッチワースの都市「外」との関係や、構築前後の環境を時系列で考える必要があるでしょう。

 

8.タタール人の砂漠(ディーノ・ブッツァーティ

タタール人の砂漠 (岩波文庫)
 

なるほど、人生。という感じの本。久々の小説です。

この本もまたTwitterで教えていただいて読んだのですが、時代の流れと、時代に飲み込まれるひとりの人と。

 

9.無限論の教室(野矢茂樹

無限論の教室 (講談社現代新書)

無限論の教室 (講談社現代新書)

 

ああやっぱりすごいです面白いです。

数字に(数学の概念に?)興味を持ち始めたらさらに面白いです、線とはなにか、有限と可能無限と実無限の話でこんなに盛り上がれるとは…とも思いましたし、最初のアキレスと亀のくだりからゆっくり無限論についての議題に引き込むあたり(あとモデルとなった先生がちょいちょい笑いを挟んでくる)、物語のように無限の事情を読むことができて楽しいのです。

これ、万人にお勧めしていいかはともかく万人にお勧めしたいです(結局するんかい

 

10.飲酒の生理学ー大虎のメカニズム(梅田悦生)

飲酒の生理学―大虎のメカニズム (ポピュラーサイエンス)

飲酒の生理学―大虎のメカニズム (ポピュラーサイエンス)

 

「ポピュラーサイエンス」と銘打っているだけあってポピュラーサイエンスでした。そして20年前の本なので確かに古い知識も多い…C肝治療がインターフェロンしかないあたりとか。あとはまあ栄養・生化学を扱う全般に言えることかもしれませんが疫学的なことに関しては交絡因子が多いために今では否定されたこともまるまる書かれていたりはしました。まあ飲酒の生理だけあって、酒場で話半分にな…らない程度です。医療職がしたり顏でいうと笑われちゃうやつです。

このシリーズ、かなりの量があるようですがタイトルだけでだいぶ怪しいのがたくさんあったので(飲酒の生理学も勿論怪しい)、なるほどなという感じです。