毒素感傷文

院生生活とか、読書の感想とかその他とか

100冊読破 5周目(31-40)

1.ヴォルテールを学ぶ人のために(植田祐次

ヴォルテールを学ぶ人のために

ヴォルテールを学ぶ人のために

 

ヴォルテールの文章は何やら美しいらしいということを知った。当時の士族の子は何かとあればヴォルテールを読めと言われたそうです。ちなみに他の、哲学者についての「学ぶ人のために」シリーズと違って本人についての物語形式になっていて、最後の章は名言集みたいになっています。

己が畑を耕せという言葉を肝に銘じるなど。

しかし「最善は善の敵であってはならない」が一体どこからの引用なのか、この本には書かれていませんでした(どこからなのか。

 

 

2.Any:建築と哲学をめぐるセッション(磯崎新

Any:建築と哲学をめぐるセッション―1991~2008

Any:建築と哲学をめぐるセッション―1991~2008

 

対談編なんですがなんというかデリダ招かれてるしなんだこれは的な本でした。しかし建築の観念的なところは全然好きじゃないぞこれは。

各場所で開かれたカンファレンスの収録集なのですが、デリダ脱構築の概念がやはり誤解されていてちょっと悔しかったです(ご本人もセッションの中でそう仰っていた)。ル・コルビュジェ後の建築についてやレム・コールハースの企てなどなど各建造物が土地にもたらした作用についてなんですが、対談形式なのもあってちょっと本人たちが何に納得しているのかわからない点が多々あります。

 

3.文化・階級・卓越化(トニー・ベネット

文化・階級・卓越化 (ソシオロジー選書)

文化・階級・卓越化 (ソシオロジー選書)

  • 作者: トニーベネット,マイクサヴィジ,エリザベスシルヴァ,アランワード,モデストガヨ=カル,Tony Bennett,Mike Savage,Elizabeth Silva,Alan Warde,Modesto Gayo‐Cal,磯直樹,香川めい,森田次朗,知念渉,相澤真一
  • 出版社/メーカー: 青弓社
  • 発売日: 2017/10/26
  • メディア: 単行本
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1960年代フランスにてブルデューの「ディスタンクシオン」においてなされたような調査を、2000年代イギリスにおいて再度実施されたもの。手法は似通っていますが、特にジェンダーエスニシティについてさらにつっこんだ調査がなされていて、音楽などの嗜好もその文化圏まで調べられています。

日本版「ディスタンクシオン」は「差異と欲望」だと自分は思っているのだけど、ことエスニシティについては日本は(ほぼ単一民族で世代が構成されるゆえに)調査の土壌として不十分かもしれないなあと思うなどしました。ディスタンクシオンはたしかに良書ですが時代を読み解くものとしては現代より少し遠いので、現代の格差社会(多分な経済格差を含む)の調査方法としては見方が少し古い部分もあり、「文化・階級・卓越化」がこれに代わってくれるのではないかと思います。よいです。

 

4.ドゥルーズー解けない問いを生きる(檜垣立哉

ドゥルーズ―解けない問いを生きる (シリーズ・哲学のエッセンス)
 

この「哲学のエッセンス」シリーズが気に入ったので、ライプニッツに続いて借りてきました。ポストモダニズムの説明として言葉ばかりが拝借されがちなドゥルーズ(多くの場合は共著者であるフェリックス・ガタリと共に語られる)の、哲学の基盤となるものについて100ページ程度にまとめられています。本書の解説においてはドゥルーズの本懐であるところのスピノザベルクソンドゥルーズの流れを強く意識させて書かれています(嬉しい限りです)。あとドゥルーズのテクストを難しく感じさせる理由がカントにあるというところをようやく理解しました。カントは叩き台。

 

5.階級社会 現代日本の格差を問う(橋本健二

階級社会 (講談社選書メチエ)

階級社会 (講談社選書メチエ)

 

 こちらは前出「文化・階級・卓越化」と異なりさっと短くまとまった本です。「日本のメリトクラシー」とかもいい本だと思うのですが、どちらかといえば格差の原理にスポットライトをあてた感じです。社会科学というより理論よりといえばそうかも。この本、同じ著者による新版があるらしく、そちらを読んだ方が良いのかもしれません。

 

6.都市と野生の思考(山極寿一 鷲田清一

学長(片方は総長)同士なのでどうしても大学の話になるのかと思いきや、大体のことが京都というまちのことを巡る話なので面白いです。人類学と哲学、とくに山極教授と鷲田教授ご自身の専門の領域はある意味(意味的な側面において)近いこともあり、繰り広げられる対話は面白いです。

 

7.脳の中の天使(V.S.ラマチャンドラン)

脳のなかの天使

脳のなかの天使

 

「センス」ってなにかなあと10代のころから考えてきて、あれも違うこれも違うと感じていたけどラマチャンドラン「脳の中の天使」はちょっとした答えになった。いや、それまでにもよそからたくさんの小さな答えを授けられてはいたのだろうけど。

著者のラマチャンドラン氏は神経内科の医師であり、また研究者でもある。本書の冒頭で提示される、「研究というものに実験装置が加わると、その装置をいかにして使うかといったことに固執してしまい原始的な反射を用いたり手ずからおこなう実験が軽視されたり扱われなくなってしまう」という危惧は結構身につまされるものがありました。いえ、特になにか具体例があるわけではないのですが。

神経美学の話になるとこれが結構面白くて、ラマチャンドラン氏のお名前にもあるようにルーツであるところのインドの仏像のうつくしさの要素についての話がでてきます。これが後半に入ったくらいなので、前半はほとんど神経科学の話です。具象と抽象の谷についてや、デフォルメのありかたについても書かれています。美術系の本でなくてこういった認知科学から捉えられた美学(芸術・音楽の知覚について)の論は多くないので、読んでいて嬉しいです。

 

8.刑務所の読書クラブ:教授が囚人たちと10の古典文学を読んだら(ミキータ・ブロットマン)

刑務所の読書クラブ:教授が囚人たちと10の古典文学を読んだら

刑務所の読書クラブ:教授が囚人たちと10の古典文学を読んだら

 

良い本でした、面白く読みました。

いささか著者が感情的(情緒的)すぎますが、それを隠さないこともまた良い。特に、生徒が別のクラスでシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を演じていると知った時の屈辱に一瞬煮えるシーンとか、臨場的です。教える者の苦痛というものがよく伝わってきます。「私が差し出せるのは文学だけだ。」でこの本は締めくくられています。その経過は、お読みいただければもちろんすぐにでもわかるのですが、概ね読む前から予想がつく人もいることでしょう。教育は啓蒙ではないし、まして読書会というとのは教育ですらない。本編の中でチャールズがいったように、「いっとき現実を忘れるための」場です。これと併せてスディール・ヴェンカテッシュの「社会学者がニューヨークの地下経済に潜入してみた」を読んでいただくと、塀の中と塀の外の世界や、逆説的に「自由から守られる」ことについて考えることができますね。

 

9.不確かな医学(シッダールタ・ムカジー)

不確かな医学 (TEDブックス)

不確かな医学 (TEDブックス)

 

TEDの焼き直しです。シッダールタ・ムカジーは「病の皇帝」の著者なので気になって手に取りました、大体ベイズの話です。知っていたら読まなくていいとは思います

 

10.何のために「学ぶ」のか:〈中学生からの大学講義〉1 (外山滋比古

鷲田清一氏が著者一覧に載っていたので読みました。中学生向けなので(なので、というより単純に内容が浅い)他に読むべきものはそんなにないのですが、今福氏の「群島-世界論」はいつか読みたいなあと思っていたのでちょっと惹かれたのと、小林氏はさすがの「オススメ本」を出してきていてよかったです ゲド戦記なんですけれどもね。