この1か月、1日1冊ペースで読んでいたらしい。
1.チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷(塩野七生)
塩野七生好きだったので古本で偶然見つけたものをずっと積読していました。
マキャヴェッリの『君主論』はいまだに読んだことがないのですが、じゃあその当人の短い生涯っていったいなんだったのか、みたいなところの本。まあ史実も勿論書かれているのですがそこは塩野七生なのでちょっと史学というより文学っぽいです。何よりつらかったのは自分に中世ヨーロッパの地理が頭に入っていなかったことなんですがまあまあ楽しかったです。
2.建築の哲学-身体と空間の探求(四日谷敬子)
哲学の方向から分析した建築の有り様の変化。
ギリシア・ローマなんかの『神のための建築』または『学術の大成としての象徴』なんかの時代から、『建築のための建築』、そして『人間のための建築』に至るまでの思想・美術の変遷をさっぱりと切り取る内容。読みやすいです。哲学の本を読んだことがある人におすすめできそう。
3.福祉空間学入門-人間のための環境デザイン(藤本尚久)
完全に教科書。これ、実地で実習していたことがあります。車いすに乗った人間がどれくらいのスペースがあれば廊下で回転できるかとかそういうのが逐一書かれていたりする。
4.「インクルーシブデザイン」という発想 排除しないプロセスのデザイン(ジュリア・カセム)
「インクルーシブデザイン」という発想 排除しないプロセスのデザイン
- 作者: ジュリア・カセム,平井康之,ホートン・秋穂
- 出版社/メーカー: フィルムアート社
- 発売日: 2014/06/26
- メディア: 単行本
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ノーマライゼーションに関してはこれはかなり強いなあと思います 『ズートピア』をめっちゃくちゃ思い出しました。社会にいる人間って労働生産人口とはまったくイコールではないので、プロダクトデザインについても環境デザインにしても「誰のため」を狭く設定しないことが大事なのかなと思ったり。
ちなみに著者は京都工業繊維大の教授なので身近だったりしたのもあって読みました
5.素手のふるまい アートがさぐる【未知の社会性】(鷲田清一)
鷲田教授が京都芸大の学長になられてからの本ですね。
アート(パフォーマー)たちの営為を言語化した一冊。それは、労働ではなく、制作っではなく、「活動」で、現象なのですけれども。アートを「芸術」と訳すか「技術」と訳すかでかなり印象が違ってくるでしょうが、「芸術」を「技術」と見做して人と接続する手段として用いた場面の切り出しといったら近いでしょうか。
もともと現代思想の研究者なんですが、高校生向けの評論なんかも書かれているので鷲田氏の文章は本当に読みやすいです。
6.解明される宗教 進化論的アプローチ(ダニエル・C・デネット)
これは文句なしによかったです!!グリックの「インフォメーションの人類史」の宗教学バージョンといってもいい。宗教学とっつきにくいなあと思っていたのですが、なんというか導入のような感じですいすい読めました。分厚いですけど面白いです。『利己的な遺伝子』とか『銃・病原菌・鉄』とか好きな人にはぜひおすすめしたい。非常に真面目な本です。
好きなくだりがあるのですが、宗教それそのものは存在の良しあしをなぜ問われなければならないのか?みたいなくだりがあるんですよね。我々は音楽の存在の必要性は説いてもそれを聴くことの良しあしは問わないというのになぜ宗教は問われなければならないのか?みたいなくだりがあって、さもありなんと思ったんですよねえ。もうちょっと各論に進んでみたいなと思わされた一冊でございました。
7.人間の街:公共空間のデザイン(ヤン・ゲール)
その名の通りパブリックデザインについての本。
これまで完全に構造と機能として、または都市計画としてしか読んでこなかった街に、人間のアクティビティが加わることでダイナミクスの理解につながる。有機的な都市のデザインへのアプローチという感じ。人間の歩く速度で見える景色、もっとも視認性がよく滞留しやすいデザイン、など。建築のファサードについて考えさせられますのう。
8.フリープレイ 人生と芸術におけるインプロヴィゼーション(スティーヴン・ナハマノヴィッチ)
ヴァイオリニストの即興演奏者の本。この本一冊からなにか得られるとは思わんけど、ジョルジョ・アガンベンの『裸性』とか黒ダライ児の『肉体のアナーキズム』みたいに身体パフォーマンスの概説本っぽかった。営為を取り上げることのできる本って哲学系か芸術系くらいしかないので面白く読んだ。
コミュニケーションがそもそもその場でやりとりされる「まるで即興の合奏」であることを意識している人はあまりいないと思うけど、この本はなんとなくそれを裏付けてくれる気がする。ある「きっかけ」に対して発火するシグナルのやりとりは、合奏と会話はほぼ対等のそれやと思う。まあでも芸術系の、とくに受動的でなく能動的な楽しみ方をしている人でないとなんとなくの理解は難しい気がします。
9.活動的生(ハンナ・アーレント)
一応この本ジャンルとしては政治哲学にあたるようなのですが、自分としては実存主義と構造主義のあいの子として楽しく読みました。というかとてもうれしかったのがこれを読み始めたときに、自分の仕事について「それは労働・制作・活動のどれにあたると思います?」と聞いてもらえたこと。結構自分なりに考えながら読めたので面白かったんです。
本を読むときに他人の目を巻き込むというのは面白いことやなあと思います。
実際に自分の答えとしては、「行為する人間の知覚によって変化しうる」だと思います。勿論客観的にすべての要素を含むわけですが、ある人にとっては労働でしかないし、ある人はそれを制作として転換しうるし、ある人はすべての現象を肌で感じてそれ自体を行為、活動とすることもできる。と思う。今の暫定的な結論。
10.パブリックライフ学入門(ヤン・ゲール)
『人間の街』が面白かったのでこれも読んでみました。それぞれの都市においてその動線・滞留・関係が生み出すものと生み出せないもの、変化した理由について。
おおざっぱな都市論の歴史についても書かれていて自分には有難かったです(別に専門に学んでいるわけでもないし)。
結局いま、どの本を読んでいても公共スペースというのはインタラクションの場として大きく取り上げられがちで、身体性というか身体という逃れられない器を通して知覚する都市・建築についてもっと敏感になるべきだっていうんですよね。車の速さよりも目の高さに焦点をあわせること、個人の歩く速度、自由にいきる余暇時間が都市に何をもたらすか。そういうことを考えるのが結構好きです。また街の写真を撮りたくなる。