毒素感傷文

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400冊読了記/100冊の中からオススメ10選(301-400の中から)

半年近くかけて、今回の100冊を読み終えました。恒例の万人に向けてオススメしたい10選と読後日記、記事を変えて「ヘンなのが好きな人のための」オススメ10選を書きます。

 

 

100冊の中からオススメ10選

まず技術者関連への2冊。

1.プロフェッショナルの未来 AI、IoT時代に専門家が生き残る方法(リチャード&ダニエル・サスカインド)
プロフェッショナルの未来 AI、IoT時代に専門家が生き残る方法

プロフェッショナルの未来 AI、IoT時代に専門家が生き残る方法

 

本の紹介は読了時にしたものをそのまま引用します(すみません)。

著者は英国で政策研究をしていた息子と弁護士の父。専門職におけるIT化がどのようにもたらされ、その協力はどうあるべきかについて。『〈インターネット〉の次にくるもの』という別の著者の本を読んだときに、これはいち市民(つまり情報の享受者)としてのリテラシーや学の形成をどうすべきかの方向づけであり、市民教育みたいなものやなと思ったのですがこっちは専門職がどうネットワークを捉えるかという感じですね。面白いです

ちなみに本を読みながら我々は業種として専門職かなあと思うなどしましたが、中程に答えがあって、準専門職ということでした。医業においてはそうかりつつありますね(NP、診療看護師とかはそんな感じ)アトゥール・ガワンデ著『なぜあなたはチェックリストを使わないのか?』やジェイムズ・グリック『インフォメーション 情報技術の人類史』などから引用があり自分は大変納得と満足しております。専門職の分業とルーチンワークの機械化については本当にもっともっと進んで欲しいです

中に引用されていて気になったのはヴォルテールの『最善は善の敵であってはならない』というものです。もともとの文章はどういう文脈でのこの言葉なのかはわかりませんが、最近倫理学まわりを考えるにあたって気になっていることです。

100冊読破 4周目(71-80) - 毒素感傷文

タイトルが意識高い系ですが、AIが仕事を奪うの奪わないのといった寝言とはまったく違う真面目な本なので、そういったばかばかしい言い争いから無縁でいたいが現在とこれからのビジネスの話題にはついていきたいワ、と思う方におすすめです。

なぜこんなに辛口かというと実はこれが1冊目の紹介であるにも関わらず、書評を書き足しているのは1番最後でちょっと疲れているからです(如実に文章に棘がある)

2.あなたはなぜチェックリストを使わないのか?【ミスを最大限に減らしベストの決断力を持つ!】(アトゥール・ガワンデ)
アナタはなぜチェックリストを使わないのか?【ミスを最大限に減らしベストの決断力を持つ!】

アナタはなぜチェックリストを使わないのか?【ミスを最大限に減らしベストの決断力を持つ!】

 

外科医かつ安全管理のプロフェッショナルでもあるガワンデ氏の著書。ビジネスマンほいほいみたいなちゃんちゃらおかしいタイトルがつけられていますが、真面目な本です。 人は間違えるしうっかりミスもする、なおかつ自分を過信する。リスクマネジメントについて実際に具体的な手法を、航空・建設・調理の業界からも集めた本。外科のことなので具体例はかなり身につまされる臨床の話がゴロゴロ出てきます。そして大事なことですが、アサーションスキルについても触れられていました。なかなかやりにくいですよねアレ。ちなみにチェックリスト作成については実際の方法論にも触れられていて、結構難しそうです。シンプル、場に適切なこと、毎回実施できることって難しいものです。

100冊読破 4周目(11-20) - 毒素感傷文

心理学や危機管理に興味のある方におすすめの1冊です。

医療関係の方にもおすすめできますが、それ以上に広く「リスク」を伴うお仕事に従事されている方、またそれに興味のある方におすすめできます。結構ぺらぺらで読みやすいですが、中身はつまっています。

 

続いて社会学から3冊。

3.ドラッグと分断社会アメリカ 神経科学者が語る「依存」の構造(カール・ハート)
ドラッグと分断社会アメリカ 神経科学者が語る「依存」の構造

ドラッグと分断社会アメリカ 神経科学者が語る「依存」の構造

 

次の本にも薬物売買が出てきますが、こちらはどちらかといえば当事者としての側面にスポットライトを当てた本です。スラムで育ちながらも周囲の支援を受けて博士課程まで進学し、心理学で博士号を取得した著者によるもの。社会学のジャンルにしたのは、スラムとそこでの教育効果、周囲の支持的紐帯や薬物依存に至る構造などがどちらかといえば社会構造の反映であるからです。

真面目な本ではありますが、個人のお話しであるために一種のサクセス・ストーリーとしても読むことができます(あまりおすすめはしませんが)。重たい側面もありますが、おすすめします。

 

4.社会学者がニューヨークの地下経済に潜入してみた(スディール・ヴェンカテッシュ) 
社会学者がニューヨークの地下経済に潜入してみた

社会学者がニューヨークの地下経済に潜入してみた

 

書き方が非常に劇場型なのですが、普段学術書を読まない方にこそお勧めしたい1冊です。物語調で書かれているので共感しやすく読みやすいです。その名の通り、社会学者であるヴェンカテッシュ氏本人が薬物売買や売春といったアンダーグラウンドにおける取引構造がどうなっているのかを暴いていきます。質的調査の基本となる「協力者からの信頼」がある意味もっとも得づらい分野でもあるゆえに、彼がこれを記した功績は(学術的にも)高いのではないかと思ったりします。なので、物見遊山でアングラカルチャーに触れてみるのもあり、(専門書としてとらえるにはいささか読みづらいですが)学術のドラマティックな側面としてとらえてみるのもあり、といった風合いの本です。はっちゃけています。

 

5.社会学の考え方(ジグムント・バウマン
社会学の考え方〔第2版〕 (ちくま学芸文庫)

社会学の考え方〔第2版〕 (ちくま学芸文庫)

 

社会学とはなんぞや?

現代の社会学は、諸々の接頭語によりその名を汚されていることも多いです。折角なので「まじめな社会学とはなんだろう」に立ち返りたくてこの本を読みました。著者は去年亡くなられた社会学の大家です。社会学の系譜(ゲオルク・ジンメル、アントニオ・グラムシら)も追いつつ、社会学が隣接する学問領域からどのように思想を譲り受けてきたか(ex.フリードリヒ・ハイエク、スタンレー・ミルグラムジャック・デリダミシェル・フーコー…) について論じている良書です。

社会学をわかりやすく概説する、真面目で読みやすい本を教えて!と言われたらこの1冊を提出します(もっといい本が他にあるのかもしれませんが...)

社会学を学ぶ学生のために書かれた章が最後の方にあり、それもまたよいですね。

社会科学に興味を持たれている方にもお勧めできると思います。

 

経済学から2冊。

6.行動経済学の逆襲(リチャード・セイラー
行動経済学の逆襲

行動経済学の逆襲

 

リチャード・セイラー、今年度のノーベル経済学賞を受賞されましたね。その発表前に読んでいたのがこちらの本です。前知識がなくても楽しく読めます。ゲーム理論、選好、つまり人は与えられた情報が不確実な状況下でどのような選択・判断をしたがるかについて興味がある方にはとてもおすすめです。

それ以上に、内容が読みやすいので誰でも楽しめると思うのです!ノーベル賞取った人がどんなもんかな、くらいの気持ちで読めます。下記が読了時の感想。

ダニエル・カーネマン、エイモス・トヴェルスキーと共同研究していた経済学者による行動経済学略歴のような本。1970年代の合理的意思決定モデルからの転換を面白く書き出しています。認知心理学に興味があって、かつ投資に興味があればさらに楽しめるはず。わたしは資産運用とか個人の株売買にあまり興味がないし知識も浅いんで、この本の20-28章あたりはかなり難しかったです。が、29.30あたりのドラフトの余剰価値とかは結構野球好きな人とか面白いんちゃうかと思いました! そしてそして終章に書かれている、「行動マクロ経済学を待ち望む」の言はまさに先見の明やなあと思います。貧困の経済学、社会学、教育や福祉に携わるにあたり人間の非合理的な行動を熟知していることと、それをリバタリアニズム的なパターナリズムによって損失を最小限にとどめることは急務やと。そうそう、アノマリーを観察することが行動経済学では大事ですよ!っていうのもとても面白いなと思いました(ちなみに心理学では今も昔も、観察が基本の基本だと思う) あとはノーマンの「誰のためのデザイン?」にも触れられていたのでやっぱりあの本も名著中の名著なんやなと思うなどしました。アトゥール・ガワンデ「なぜあなたはチェックリストを使わないのか?」なんかもありましたね(こちらは未読です)。

100冊読破 4周目(1-10) - 毒素感傷文

 

7.オンラインデートで学ぶ経済学(ポール・オイヤー)
オンラインデートで学ぶ経済学

オンラインデートで学ぶ経済学

 

恋愛工学とかいうものが日本で少し流行った時期もございましたが、あんなものではございません。真面目な経済学です(数式は出てこないので2囚人問題とかもさして詳しく載ってはきませんが、ちゃんと内容理解としてはできるようになっています)

SNSがこう発達した現代にあって『マッチング』というものは難しくなりました。この『マッチング』についてかなり詳しく書かれているのが本書といえると思います。

...とか堅苦しく書いてはいますが、これめっちゃ面白いです、これ1冊でブログ記事1つ書けるくらい面白かったです。特にマッチングアプリに1度でも手を出したことのある人、気になるけどやったことない人、気にもならないけど存在はしっている人に是非とも楽しんで読んでいただきたい。若い人には大体オススメしたい。

 

哲学・思想から2冊。

8.道徳感情論(アダム・スミス
道徳感情論 (日経BPクラシックス)

道徳感情論 (日経BPクラシックス)

 

ビジネスマンに、いいから読めといって押し付けたい1冊。

普段情動をコントロールしている対人援助職はふむふむと思って噛み締めていただくとよいですし、そうでない方たちは一度わが身を振り返るために(ないし他人の情動に困らされないように)読んでいただいてもよいかと思います。

この本の序文を書いているのは経済学者アマルティア・センですが、センも「国富論」よりこういった道徳的側面に大きく影響を受けたと述べており、今読んでほしい1冊でもあります。ちょっとだけ下記に本文の引用を。

聡明な人は、称賛されても自分がそれにふさわしくないとわかっていたらまず喜ばないけれども、称賛に値すると自分が思うことをしているときには、たとえ誰からも称賛されないとよく知っていても、しばしば大きな喜びを感じる。是認されるべきでないことに世間の是認を得るのは、聡明な人にとってはけっして重要な目標とはなり得ない。現に是認される価値があることに是認を得るのは、ときに小さな目標にはなるかもしれない。一方、是認に値するものになることは、つねに最も重要な目標となるはずである。ーアダム・スミス道徳感情論』

9.自由論(ジョン・スチュアート・ミル
自由論 (光文社古典新訳文庫)

自由論 (光文社古典新訳文庫)

 

国家の価値とは、究極のところ、それを構成する一人一人の人間の価値にほかなるない。だから、一人一人の人間が知的に成長することの利益を後回しにして、些細な業務における事務のスキルを、ほんの少し向上させること、あるいは、それなりに仕事をしているように見えることを優先する、そんな国家には未来がない。たとえ国民の幸福が目的だといっても、国民をもっと扱いやすい道具にしたてるために、一人一人を萎縮させてしまう国家は、やがて思い知るだろう。小さな人間には、けっして大きなことなどできるはずがないということを。すべてを犠牲にして国家のメカニズムを完成させても、それは結局なんの役にも立つまい。そういう国家は、マシーンが円滑に動くようにするために、一人一人の人間の活力を消し去ろうとするが、それは国家の活力そのものも失わせてしまうのである。ージョン・スチュアート・ミル「自由論」

言わずと知れた名著ですが、短くて非常に読みやすいです。おすすめです。

東インド会社を経営する傍ら独学で経済学・哲学を学んだのがミルです。ミルは生涯、学校教育というものに触れることなく(つまり家庭教師付きで)厳格な父のもとで育ちました。ミル自身はこのように富裕層で育ちますが、公教育の重要性や格差の是正に対しても言及しています。

本書では、個人の自由(自由意志)とその制約可能性について論じています。アイザイア・バーリンの『自由論』を読んだためにこれを読みたくなったのですが、読んでよかったなあと思いますし、多くの方にお勧めできる1冊だと思います。光文社古典新訳文庫は比較的訳が新しいので、語彙も平易で読みやすいのが特徴です。

最後に好きな節の引用をもうひとつ。

人間性は、多様性になじんでいても、そこからしばらく離れているとすぐに、多様性をイメージすることすらできなくなるものなのだ。ージョン・スチュアート・ミル「自由論」

 

街歩きの1冊。

10.京都の平熱 哲学者の都市案内(鷲田清一

読んだ時の感想が下記。

鷲田教授、京都の都市解説ときけば読まざるを得ない。

 

京都市バス206号系統(東大路を北上、ぐるりと4大大路をまわって京都駅に戻るバス)に沿って「まちあるき」をする。特別な、拝観料のいるような観光地ははぶく。お茶の家元、花街文化、大学(これだけは禁をやぶっていたけれど)...には触れない。

 

京都に就職して実際に住むことになったあの3.30のことを思い出しました。町のもつ違和感について。それは様々な箇所で、次元で蓄積されていまも楽しませてくれる。京都は、歴史が深いからよいのではないー というの、得心がいく。そして何人かの京都人を思い出した。なるほど。 新しいもん好き、ちょっと人との距離があって、「間合い」をとてもじょうずに使う。それは決してきれいなものばかりではなく、汚い、ばっちいところもたくさんある。そういう京都。「こわい」京都じゃなくて、「素っ気ない」さっぱりした裏の京都について。

100冊読破 4周目(1-10) - 毒素感傷文

京都と近代: せめぎ合う都市空間の歴史(中川理)

を読んだときにも思ったことですが、京都というのは不思議なまちです。ローマのように、古代・中世、近代・現代が堆積しているまち。「きょうと」といっても、「いつのきょうと?」と問い返されるような文化の反復と、反復のたびに差異が生まれている。

京都がお好きな方に、京都を新しく知りたい方に、是非。京都住まいの自分からオススメいたします。

 

400冊読了記

やっとここまで(記事が)たどり着きました。ちょっと疲れました...

読書が趣味からある程度の習慣となってはや2年近くが経ちます。これを始めるまでもぽつぽつと学術関連の総合本は読んだりしていたのですが、やはりこうも長く続くと感慨深いものがあります。確実に読書は私を遠くへ連れてきました。

読書のコンセプトについては、毎度のことながら下記にありますゆえよろしければご参照ください。

streptococcus.hatenablog.com

 

上の記事から1年弱経って、ある程度こなれてきたときに書いた記事がこちらです。

streptococcus.hatenablog.com

 

現在は、哲学関連の本を読んでいることが多いです。細分化され、哲学の古典・現代形而上学・公共の哲学・知覚の哲学・臨床哲学・応用倫理学など知りたいことは多岐に渡ります。専門職ではないので、勿論読めるものにとどまりますが。

上記の『読書についてーわたしの本の歩き方』からさらに発展した点といえば、記号論理学・統計学(を含む社会科学における数学)への興味がでてきたことでしょうか。

来期からは大学の授業も本格的に社会学/経済学の分野に入っていく(いきたい)ので、その前哨戦としての本も読むようになりました。前哨戦というか既に本番ですが。おすすめに挙げなかった多くの本がそれにあたります。

 

「オススメ本」は100冊読破をはじめたときからずっと続けているのですが、だんだんとその内容も変わってきているように思います。特に今回の100冊はオススメしたい本がとても多くて、選ぶのに悩みました。もしよろしければ、他のブログ記事にすべての本のひとこと書評がありますので、目を通して「気になるな」という本があったら調べて手に取ってみていただきたいほどです。

と、いうわけで次の記事(予定)「100冊の中からもっと気になる人のためのおすすめ10選」はもっと趣味に傾倒していこうと思います。ごきげんよう