毒素感傷文

院生生活とか、読書の感想とかその他とか

興味の変遷とか読書への動機とか

「なぜその分野に興味を持ったのですか?」と時々訊かれることがあるので、メモを兼ねつつリストアップすることにしました。

とくに、大量に本を読み大学で単位を取りまくるという奇怪な行動についてはその志向性と動機を不思議がられることがありました。そこで、興味を持つまでの各ルートと大きな影響を与えた本、放送大でとった科目を紹介し…ようと思ったのですが、放送大は科目が多すぎるので、「エキスパートプラン」という大学独自のコース横断カリキュラム(目的に合わせて授業をある程度体系立てて取りたい人向けのパッケージ)のみ添書きします。

 

時系列・経験のルート

小学生~中学生くらい

「あなたはだれ?」「世界はどこからきた?」という問いをぶつけられ、西洋哲学の基礎部分の曖昧な知識・見方をもつようになりました。普通の読書だったので、この頃以降に哲学に関連する本も読んでいませんし、その他はファンタジーや漫画ばかりでした。
 

中高生~専門学校入学前くらい

部活ばかりしていたので、あまり具体的な書籍・分野には触れていませんでした。趣味の範囲でのことで、写真の構図やウェブデザインについて考えていることが多かったのはこの頃の特徴です。この時期に特別何かしたわけではありませんでしたが、10代から次第に芽生えてきたデザインへの興味、空間認識や知覚への興味がのちの読書に反映されていると思います。
ちなみに、高校の時にはウェブデザインをしたかったのですが、諸事情により断念しました。それ以降特に直接専門分野として触れることはありませんでしたが、趣味としての写真は続けました。結果的に街歩きをしてスナップを撮ることが増え、都市社会学や建築に興味を持つことになります。
 
また、このあたりで哲学の各分野への興味が少し含まれるようになりました。
そのほかに、中学生くらいのころから「正義とはなにか?」「公平・公正とはなにか?」と、自問自答していたような気がします(明確な答えは勿論導けないものの)。鷲田清一氏の専門の中に臨床哲学が含まれることはまだ知りましんでした。メルロ=ポンティを専門としていたことも。
 

専門学校在学中~勤務開始、100冊読破を始める前後まで

看護理論を学ぶにあたり、そのもととなった概念や引用・参考文献に興味をもつようになりました。
 これ以降は哲学の分類へ。
 これ以降は社会科学の分類へ。
 
また、東京に遊びに行くようになったり、就職を機に転居して、街の雰囲気の違いや人間の回遊行動、記号の認識や社会格差などに興味が深まりました。Twitterの詮無いバズツイートやアカウント同士の口論もきっかけにはなったと思います。

などの分野に興味をもちました。これについても後述します。

 

その他趣味で読んだもの

    1. リチャード・ドーキンス利己的な遺伝子』有名だったので読んでみたかった。意思決定理論に興味を持つきっかけに
    2. ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』『文明崩壊』『昨日までの世界』先頭から2作は自宅にあったので読んだ。文化の多様性とその拡散、異なる文化の他者の合理性など
    3. 『システムのレジリエンスレジリエンスという語に惹かれてAmazon適当に買ったら見当違いの内容だったけど、面白くてハマってしまった。安全管理に興味を持つ
    4. ジェイムズ・グリック『インフォメーションー情報技術の人類史』情報理論情報科学に興味を持った
    5. ティーブン・シャペル『法と経済学』なんとなく目についた分厚い本を手にとった。哲学の自由論・功利主義と近い内容で、興味をもった。あとはサンクションとかハームリダクションといった概念、刑罰の必要性(または不要性)、有害性についても
    6. D.A.ノーマン『誰のためのデザイン?』知覚心理学認知科学分野に関わりが深く、のちに認知心理・危機管理に興味をもつきっかけになった
    7. ダグラス・ホフスタッター『ゲーデルエッシャー・バッハ あるいは不思議な輪』奇怪な本だった。のちに意識の哲学を含む分析哲学言語哲学言語学に興味をもつきっかけになった
時期的に、2は一部100冊読破を始める前に読んでいました。1の本が刊行40周年記念で再度話題になり、無理をして読んだのがきっかけで、もっと挑戦したいと思い100冊読破をはじめることにしました。仕事が多忙であったため、ノルマや時間制限は設けていませんでした(今もですが)。
 

ボトムアップの興味・関心

情報科学・数学

中高生から数学が苦手で、専門学生以降は統計に苦心した覚えがありました。自分が手をつけたなかではもっとも優先度が低かった領域で、興味1-2割、残りは義務感です。途中で意思決定理論に興味を持ったため、ベイズなどからモデリングに興味をもち始めています。

最終的にこんな分野に絞られていきます。

統計は実用含めて理解したかったのと、のちに行動経済学に興味を持ったから。高校数学ー大学教養レベルの数学は、単に理解したいと思いつつもやり残していたから。あと、放送大学で適した授業があったので。自然言語処理は、言語学に興味を持ったから、という流れです(後述)。

きっかけになった本は、先述の『インフォメーションー情報技術の人類史』に加えて

  • アレックス・ペントランド『正直シグナル』コミュニケーションの認知科学領域
  • イツァーク・ギルボア『意思決定理論入門』advanced care planningに興味があったのだが、意思決定にという言葉に惹かれて読んだら完全にベイズですありがとうございしまた

特に後者は統計の中でも認知に関わるもの、事後確率やバイアスといった分野に深く興味を持つきっかけになりました。あとはTwitterでフォローしている人がなぜか情報学系に偏っていき、その方々から影響を受けたところもあると思います。

また、コミュニケーションに関してはもともと自分が苦手としていたのもあり、哲学・言語学・情報学・社会学・心理学など多くの領域からの知識を必要としていました。

  • トレヴァー・ハーヴェイ『心理言語学を語る』
  • 柏端達也『コミュニケーションの哲学入門』
  •  

貧困に関する社会科学

仕事柄、どうしても被生活保護者はじめ社会的弱者と接することが多かったのがきっかけです。しかしそれだけでなく、僅かな経済格差でも大きく生活を変えてしまうことや、男女差別・学歴格差などにも興味がありました。これに踏み込むには社会学だけでなく経済学方面の知識も必要であると感じ、徐々に読むようになります。

などから入りました。

 

認知科学

病院で働いているので、安全管理に興味がありました。100%防ぐことはできないインシデントをどのように回避するか、また回避できないものの被害をどこまで小さくするか、それに関わる因子はなにか、など。

先に述べた『システムのレジリエンス』、『誰のためのデザイン?』に加えて

  • アトゥール・ガワンデ『あなたはなぜチェックリストを使わないのか?』

特に認知心理には強い興味をもつことになり、放送大学入学時には教育と心理のコースに所属して認知心理関連の科目を大量にとりました。 先述に挙げた本たちから強い影響を受けています。あとは

など。細分化するならば、社会心理学、意思決定、知覚心理などといわれる領域に興味があると思います。

 

組織論

チームプレーが苦手なのにもっともチームワークを要求される職に就いてしまったので、組織行動とはなにか?という問題にはやくからぶちあたっていました(ぶちあたったと認識できたから乗り越えたともいう)。組織文化・ハザード認知・単位時間あたりの労働効率・労働分配…etcetc...と分類しづらいことを考えていて、経営というよりは組織行動・組織文化に強い興味があるようでした。最初は何から読めばいいのかわかりませんでしたから、ピーター・ドラッガーの『マネジメント(エッセンシャル版)』を読みました。企業の社会的責任とかについて考え始めたのもこのころで、マーケティングにも少し興味はあります。
  • ティーブン・ロビンス『組織行動のマネジメント』
  • ハッチ『組織論』

など。

 
 
このころハマったが、のちに読まなくなったもの
  • 建築デザイン
前提知識がないので、街づくりなどの技術や計画は読んでいて面白いものの、それ以上に学ぶことはできませんでした。都市や環境の可視化には今でも興味があります。
ジル・ドゥルーズジャック・デリダを読んだものの(心は折れた)、深入りするというより近代哲学へと遡っていきました。表象や記号については、言語哲学分析哲学に至ります。
  • 宗教学
奥が深すぎました。史学があまり得意でないのもあります(優先度は高くないが今でもときどき読みます)
 
 
 

100冊読破をはじめてから

最初に参考にしたもの

  • 哲学総合本

『哲学用語図鑑』慶応義塾大学出版会『倫理学案内』など。前者は目にとまったので買ったという至極単純な動機です(パラ読みして面白そうだったからというのもありますが)。ここでめやすをつくり、自分が気になる分野・哲学者・キーワードを掘り下げることになりました。後者については哲学の本はそこそこ読みなれてからです。応用倫理と呼ばれる分野の各論に興味を持つようになり、全貌を教えてくれるような教科書的な1冊が欲しいと思い、図書館で借りてきました。

今のところトータル15冊くらい読んでいますが、こちらにも大変お世話になっています。シリーズ自体は100冊規模であったと思うのですが、人文・社会科学系の分野を一般人~専門分野初学者程度に向けて解説しています。どの本も本当にクオリティが高いです。

 

哲学とその周辺分野への散らばり

  • 規範倫理への興味
    1. ロールズ『正義論』功利主義への批判としての平等の希求に興味があった
    2. ミル『自由論』市場における個人の自由みたいなところが面白くなってきた
    3. カント『実践理性批判』正直わけがわからなかった
    4. シンガー『実践の倫理』動物の倫理がわからなさすぎて読んだ、批判と検討を自分の中でするために現代の功利主義の各論の入り口として
ロールズ『正義論』から貧困や格差、資源配分の公正に興味をもつ
厚生経済学開発経済学、とくにアマルティア・センエステル・デュフロへ「潜在能力」の概念を知りたくなる
→教育社会学、特にピエール・ブルデューの「メリトクラシー」概念に興味をもつ
 
  • 徳倫理への興味
  1. ルネ・デカルト『情念論』
  2. 遠藤『情念・感情・顔 コミュニケーションのメタヒストリー』

3で興味をもって2に行き、1を別の文脈で読んだので時系列は逆。3はコミュニケーションについての本をとにかく読みたくて手にとったのだけど、およそ人間の感情の表出が哲学の文脈でどのように扱われてきたかが読めるのでそこから興味をもっていきました。しかし未だに徳という概念がよくわからないので、このカテゴリを徳倫理学というべきなのかどうか正直よくわかりません

 
  • 公共哲学への興味
  1. 鈴木健なめらかな社会とその敵』公共哲学かどうかはともかく(社会システムの未来みたいな感じの本なので、公共全般を扱いますが哲学というカテゴライズは間違いかも)
  2. ハンナ・アーレント『活動的生』『人間の条件』、ハイエク『隷従への道』
  3. ユルゲン・ハーバーマス『公共性の構造転換』
あとはこの周囲でメディアの扱いについても読みました。代表的なところだとマーシャル・マクルーハン『メディア論』とかリースマン『孤独な群衆』とか。結局この辺りは教育社会学に収斂しましたが。
 
  • 『知覚』に関する哲学に興味を持ち出す
  1. ヒューム『人間本性論 知性について』
  2. ベルクソン『意識に最初から与えられているものについての試論』『物質と記憶
  3. フッサール『内的時間意識の現象学』→ほぼまったく理解できない
  4. カント『純粋理性批判』→ほぼまったく以下略
どの人からも引用される本からはじまり、色々読みましたがこの時期に何かを理解したとはいいがたいです。ただ、時間概念や観念の形成に関する議論が多様な形で存在することを知って楽しみを感じ始めたのはこれらの本があったからだと思います。
 
  • 読書会
デカルト省察』読書会(中断)、ウィリアム・フィッシュ『知覚の哲学入門』読書会(継続中)がはじまり、知覚に関する分析哲学的アプローチを受け入れ始めました。
分析哲学は現在の言語学認知科学と関わりが深く、ジャンルを問わずたくさん読みました。代表的な本を下記に挙げます。
  1. ダニエル・デネット『解明される意識』『心はどこにあるのか』
  2. アントニオ・ダマシオ『自己が心にやってくる』
  3. クリストフ・コッホ『意識を巡る冒険』
  4. V・S・ラマチャンドラン『脳の中の天使』
  5. オルグ・ノルトフ『脳はいかに意識をつくるのか』
  6. スタニスラス・ドゥアンヌ『意識と脳ー思考はいかにしてコード化されるか』
デネットの「デーモン」概念とチョムスキーの「生成文法」が近い(デネットチョムスキーを参照したともいえるかもしれませんが)と知り、生成文法の本を読んだりもしました。ちなみによくわかりませんでした(これを機に統語論自然言語処理の本を読むようになりました) 
 

社会科学への広がり

環境工学・都市経済・都市デザイン・建築など
  • ヤン・ゲール『人間の街』→人間の都市における回遊行動の観察、都市設計
  • 内藤廣『形態デザイン講義』『環境デザイン講義』『構造デザイン講義』
  • 江口晋太郎『日本のシビックエコノミー―私たちが小さな経済を生み出す方法』
  • 馬場 正尊『RePUBLIC 公共空間のリノベーション』
都市社会学
上記の分野は、都市という巨大なシステムのメタボリズムに興味をもって何冊か本を読みました。放送大の教科もいくつかとり、最終的には教育社会学への興味も含めて『現代社会の探究』というエキスパートプランの認証をとりました。
教育社会学
アーヴィング・ゴフマン『スティグマ社会学
トニー・ベネット『文化・階級・卓越化』
など。後者は統計的な分析も多々含まれていて、傾向の可視化全般に興味を深めるきっかけにもなっています。
このあたりまでの分野を集合したところに、エキスパートプラン『人にやさしいメディアのデザイン』と『数学と社会(未取得)』があったのでそれも認証をとりにいきました。
質的社会調査やエスノメソドロジーにも興味がありましたが、深く興味をもったかと言われると微妙です。
 
 
 経済学
基礎がわからなかったので放送大の授業をとりながら、分野としては厚生経済学行動経済学開発経済学に興味をもつようになりました。きっかけとしては①功利主義などの哲学からのルート②認知心理から行動経済学へのルート③格差の原理から厚生経済学開発経済学のルートがありました。
 
言語学
言語哲学記号論、情報認知とコミュニケーション、発話行為など以前から興味があるコンテンツが多かったので徐々に入るようになりました。最初期はソシュール『一般言語学講義』を読んだものの、その後は言語哲学側からたどり着くまでに随分時間がかかりました。
これという本を挙げることは難しいのですが、
  • 三牧陽子『インターカルチュラルコミュニケーションの理論と実践』コミュニケーション行為におけるポライトネス(気配り、配慮)について
  • クラウス・クリッペンドルフ『メッセージ分析の技法ー「内容分析」への招待』
  • 安原和也『ことばの認知プロセスー教養としての認知言語学入門』

などでしょうか。

言語哲学からのアプローチとしては

あたりが参考になりました。放送大の言語哲学の科目もひとつとっています。
 
このあと、自然言語処理に強い興味を示すようになり、放送大の科目をとったうえでデータ分析系の科目をとってみたり実際にPythonを触ってみたりしています(まだ序盤の序盤に過ぎませんが)。この辺りの趣味が嵩じて、エキスパートプラン『データサイエンス』『計算機科学の基礎』を目指すことになりました。
 
 
まとまりなくだらだらと書いてしまったのですが、そもそも読書の傾向も興味の方向性もかなり散漫であり常にあっちをふらふらこっちをふらふらしているので、ひとつの記事としてまとまりをもたせることが難しいことに気が付きました。
というわけで、表記ゆれや各書籍へのリンクは貼るかもしれませんが、これ以上手直しをできる気がしません(これでも実は2か月かけていて、暇つぶしに時々構成を練って作ってきました)。きっかけや方向性を示す本は挙げればきりがないし、あれもこれもとなるので、今回は「おすすめ」はあまり書かないようにしています。読みやすい本はいくらでももっとあるのですが、自分が出会ってそこそこ衝撃を受けたり「この分野もうちょっと深めたい」と動機をもつに至った経緯を重視しています。
 
というわけで暫定的なメモとして。