毒素感傷文

院生生活とか、読書の感想とかその他とか

100冊読破 5周目(91-100)

1.弁証法はどういう科学か(三浦つとむ

弁証法はどういう科学か (講談社現代新書)

弁証法はどういう科学か (講談社現代新書)

 

どちらかというと「科学に潜む弁証法はなにか」とかそういう読み方をしているせいで得るものが少ない。

ヘーゲルマルクスもあまり読んだことないのに唯物史観とか弁証法的矛盾とかいわれてもなかなかぴんとこないうえに、それが科学だとはなかなか思えなくて困りました。

実はこの本とは随分長い縁があって、その昔看護の三瓶眞紀子著「看護学矛盾論」の中で参考図書の筆頭に挙げられていたので気になっていたのですが。なんのことはないヘーゲルを読めということなのかもしれません。読んでから考えます。

 

2.メッセージ分析の技法(クラウス・クリッペンドルフ)

メッセージ分析の技法―「内容分析」への招待 (Keiso communication)

メッセージ分析の技法―「内容分析」への招待 (Keiso communication)

 

比較的古い本なんですけど面白いなあと思って読みました、特にテキストマイニング手動でやっとるやんみたいな箇所もありますしこれ今でもコミュニケーション論に関しては結構いい参考書になると思います。いいデータがとれないといい分析はできない。私はヒヨッコなので手元に欲しい。

 

3.道徳の逆説(ヴラジーミル・ジャンケレヴィッチ)

道徳の逆説

道徳の逆説

 

犠牲が自殺にならないために、自己犠牲が各人に生きのびるようにと厳しく要求する。自己犠牲自体がわれわれにそう忠告するのだ。他の人々のために生きようと思うなら、多少は、そしてときどき自分自身のために生きよ、と。ーヴラジーミル・ジャンケレヴィッチ「道徳の逆説」

ジャンケレヴィッチの徳倫理学的な部分は「徳と愛」で語り尽くされている感じがあるのでこちらはどちらかというと徳のもつ"姿勢"の不可能性(限界)のはなしであるように思う、そして相変わらず読みにくい。個人の姿勢についての説明はジンメル社会学ヤスパース実存主義からも借りる。というかここにおいてはジャンケレヴィッチは実存主義のスタイルを一部とっている。なおかつ、徳と愛には見られなかった"徳の合理性"の観点があるのが違いといえばそうか。徳と愛よりも自由に書かれている印象がある

 

4.都市ー社会学と人類学からの接近(藤田弘夫 吉原直樹)

都市―社会学と人類学からの接近

都市―社会学と人類学からの接近

 

東大出版会「メガシティ」の2・3巻だ…という印象がありますがそもそも時代が古いのでアジアは香港・日本くらいに対象が絞られています。「移動と定住の社会学」の内容を一部含みますし、今はもっといい本がたくさんあると感じました。農村と都市部の人間特性や家族の形態の比較、住民運動の生起とそれを取り巻く報道の時系列推移とかは今でも対象を変えて観察されていますし、面白い内容かなと思います。これ自体が何か新しいことを教えてくれる本というわけでもないんですが。

 

5.仕事と日々・夢想と夜々ー哲学的対話(ヴラジーミル・ジャンケレヴィッチ)

仕事と日々・夢想と夜々―哲学的対話

仕事と日々・夢想と夜々―哲学的対話

 

なーにが入門書じゃなにもわからんわと思いながら最初から最後まで読んだんですが(本の中にそう書いてあった)、なにもわかりませんでした。科学は日進月歩だが道徳にはそういうことはないよと書いていたのが印象的です、その通りですが…

 

6.制度論の構図(盛山和夫

制度論の構図 (創文社現代自由学芸叢書)

制度論の構図 (創文社現代自由学芸叢書)

 

近代からの社会学や経済学までも巻き込んで、「行為」と「制度」の仕組みとそれぞれの考え方、何が述べられていて何が述べられていないかを指摘する。思ったよりずっと哲学(倫理学)寄り。組織論やるにあたってベースに欲しい本だ…社会学の理論の系統を追うよりこういう本を読む機会を増やしたほうがいい気がしてきた。あんまりほかにいい本を知らないというのもある。もう一回読みたいというかなんなら手元に置くべきなような気もする

構造主義が制度をどのように捉えているかっていう視点が好き、いまいち良さを理解できずにきたけどエスノメソドロジー的な解釈より自分にはずっとしっくりくるな。トップダウンの倫理というかシステムが先んじてあるから、内発的な個別の倫理が優先されることって社会生活の中ではほとんどない。

 

7.医療現場の行動経済学:すれ違う医者と患者(大竹文雄 平井啓)

医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者

医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者

 

これは面白かったですねえ面白かった。平井氏の著者は緩和ケア自分は統計など数字の詳細くらいしか目新しい内容はなかったのと、医療従事者からのバイアスを取り除くことについてくらいしか感銘はなかったんですけど、認知心理に馴染みのない医療従事者にこそ是非読んでもらうべきだと思いました。もしくは、人生の選択を迫られる前に、患者となるべきすべての方に予備知識として。

 

8.コミュニケーションの哲学入門(柏端達也)

気になるところに気になる著者の本が気になるタイトルで置いてあったらそりゃ手に取る。現代形而上学入門では心が折れたがコミュニケーションの哲学入門はわりと自分が問題としているものの核心に近くて非常にいい、内容も「知覚の哲学入門」(ウィリアム・フィッシュ)の中の議論に少し似ている。

この本自体にあんまり答えはないが言語哲学の射程範囲だとカバーしていない(こともある)社会内での相互行為や解釈の問題から入るので遠回りしなくていい感じがある。本文は100ページ余りで「シリーズ 哲学のエッセンス」ばりの気軽さで手に取れるのでオススメです。

 

9.ロボットの心ー7つの哲学物語(柴田正良)

ロボットの心-7つの哲学物語 (講談社現代新書)

ロボットの心-7つの哲学物語 (講談社現代新書)

 

心の哲学は、神経科学とか心理学からのアプローチを除けば

ポール・チャーチランド「物質と意識」ジョン・サール「MiND」

ダニエル・デネット「解明される意識」「思考の技法」「心はどこにあるのか」「志向姿勢の哲学」…くらいを読んだんやけどぶっちゃけこの本を入門にした方が良かったんでないかと。

例題はそのままサールの中国人の部屋とかデネットR2-D2で出てくるんですけど、あれらの本体はめちゃくちゃ長くて読みづらいのでこれくらいコンパクトでもいいのかなと思います。特に計算機科学は今もっと先に進んでいますし余分な問題の検討は目を通す程度でもいいやという方にこれはおすすめできます。

 

10.倫理学を学ぶ人のために(宇都宮芳明 熊野純彦

倫理学を学ぶ人のために

倫理学を学ぶ人のために

 

慶応出版会の「倫理学案内」ほどすっきりまとまってはいないんですけど、倫理学案内と合わせて読むと理解が深まるかなあと思いました。規範倫理の項とその変遷について説明される1-2章は倫理学案内ではどうだったかなあと思い返したのですが、多分こちらの方が詳しいはずです。倫理学案内はあくまで具体的でわかりやすい説明を目指しているので、倫理学のさらに基礎的な部分についてはこちらの方が詳しいと思う。