毒素感傷文

院生生活とか、読書の感想とかその他とか

100冊読破 5周目(1-10)

1.不道徳な見えざる手(ジョージ・アカロフ

不道徳な見えざる手

不道徳な見えざる手

 

訳者が自分がわりと気に入っている人なので読みましたが、今回は経済学「のみ」というより金融取引、資産運用が絡んでくるので取引関係に疎い自分にはつらかったです。心理的な部分も一部ですしね。原題は造語で、「愚か者釣り」みたいな意味です。バイアスの一言で片付けることもできますが、企業ないし政府、銀行の策がどのように「不理解」であるとこのようなことが起こるか?の解説のような本です。ちなみに私は原理を理解していないので結構読みづらく感じました。なお、経済学の徒にはこのあたりは了解済みのことと思われます。ので、基本的に仕向けるのはやはりビジネスマンですかね。資産運用を実際にしている人たちが、過去に起こった国際的な金融危機の仕組みなどを面白おかしく知りたい時にいいかなと思います。結構ニッチな本ですね、これ。

 

2.不合理だからうまくいく: 行動経済学で「人を動かす」(ダン・アリエリー)

カーネマンの「ファスト&スロー」が意思決定にまつわるゲームのような感覚で読める本だとしたら、これはヒューマンドラマを読みながら(実際アリエリー教授の若年時代に負った全身の熱傷との闘いが説明に多く用いられます)行動経済学を学ぶことができる本です。

特に情緒と意思決定の関係について書かれた点については昨今の医療者必読と言いたいくらいですが、必読というと言いすぎですと怒られそうなのでやめておきます。信頼と怒りが意思決定に影響することや、感情的に決めた(利点もあれば欠点もある)ルールが長期に行動に影響する点など面白いです。医療者なので、アリエリー教授が若くしてひどい火傷を負ってそれから立ち直るまでの苦痛とそれの対価として得た経験知に気がいってしまいますが、人間の知覚を永続的に変化させる痛みの経験についても積極的に検討しておられ大変読んでいて面白くありました。

タイトルはちょっとトボけていますが、トボけて手に取るとまあまあいい本です 行動経済学に興味あるけど難しい本は手が出しにくいワ〜という方に是非。

 

3.倫理学案内―理論と課題(小松光 他)

倫理学案内―理論と課題

倫理学案内―理論と課題

 

面白かったです。これは教科書になるよう書かれている本ですが、まさにビジネスマン向けでもなくかといって学生のみに門戸を開いているものでもない。人生のどの時期に読んでもいい本だと思います。前提の知識も必要はない(義務教育程度)まさに万人に「勧められる」といえましょう。

倫理とはなにかという問い(理性とはなにか?)がメタ倫理学に少し行きかけるので始めを読むのはもしかしたら倫理の初学者にとってハードルが高いかもしれませんが、以降は恐らく面白いです。法(正義の)哲学、政治哲学、ポストモダンの諸相、環境倫理、情報倫理など。戦争の倫理、経済の倫理もあります。もちろん動物の倫理も含まれます。生命倫理も、科学技術の倫理もあります。教科書として十二分だといえましょう。それでこの読みやすさ、価格、薄さ。最高におススメです。

 

4.資本主義の終焉――資本の17の矛盾とグローバル経済の未来(デヴィッド・ハーヴェイ

資本主義の終焉――資本の17 の矛盾とグローバル経済の未来

資本主義の終焉――資本の17 の矛盾とグローバル経済の未来

 

三部構成。第1部で「資本」がもっている矛盾の構造(労働者の生活と矛盾する理由、ケインジアンがいう需要と供給のバランスが時間経過とともに矛盾する理由、マクロ経済的に空売りによる釣りがいつか暴落する理由など)を明かしたうえで、第2部ではその矛盾の実際にどのようなクライシス(倫理的、理論的、環境的な破綻)が過去に起こったかふりかえる。第3部でやっとセンやロールズの理論をだしながら、福祉や環境政策、グローバルな公平への可能性や金融機関の介入の在り方について論ずる。経済の視点から世界を鳥瞰できる良書です。扱う用語・概念はハードですが、本の構成が読みやすく、脚注がそのページにつけられているのでありがたいです。教科書として読み進められると思います。ブルデューの「文化的再生産」についてや、リベラリズムリバタリアニズムとの相性の悪さ(つまりノージックロールズの論)に触れているとより理解が深まるのではないでしょうか。個人的には膝を強く打って死亡しそうになる場面もたくさんあり、「なぜそういう価値の構造があるのか」「矛盾の破綻する末端にいる人を救うにはどうすればよいか」「どういうインセンティブが必要か」を考えるにあたってこの本わりと何度も読みたい。2800円とお安いです。

サミュエル・ボウルズ「モラルエコノミー」ポール・メイソン「ポストキャピタリズム」の復習としても読めるし、むしろあの2冊を各論としても読めますね。因みに著者は地理経済学の人なのですが、この「地理を知っていること」、開発経済学とか公共政策を知るうえで大変重要やと思います。

 

5.うたかたの日々(ボリス・ヴィアン

うたかたの日々 (光文社古典新訳文庫 Aウ 5-1)

うたかたの日々 (光文社古典新訳文庫 Aウ 5-1)

 

とある人が、この本をお好きだと言っていたので読みました。

20世紀初頭フランスを短く生き抜いた著者の作品。日本で言う純文学のような要素が強いです。あと、小川洋子ととても雰囲気が似ている。

なるほど…サルトルの引用や、「ジャン=ソール・パルトル」がよく出てくるなあと思ったらそういう理由だったのか、という感じです。ひしひしと時代の香りがする本。「ヴィオレット」という映画を思い出しました。

労働と実存は相性が悪い。

 

6.心の仕組み(スティーブン・ピンカー

心の仕組み 上 (ちくま学芸文庫)

心の仕組み 上 (ちくま学芸文庫)

 

心に関する進化生物学-神経科学-認知科学-計算機科学を俯瞰できる本。なお、前半350ページは私はもうどこかの本で大体読んだなあという内容でした。

集団の心理における認知的ニッチの話は面白かったです、下巻の展開を待っています。

 

7.人間本性論<第1巻>知性について(ディヴィッド・ヒューム)

人間本性論〈第1巻〉知性について

人間本性論〈第1巻〉知性について

 

前半は図形の知覚、数学的概念の分解と構成について。ここを拡げて、知覚の哲学と論理的解釈、対象と知覚の話になっていく。なるほど、デカルトとかカントを読んでいた時よりずっと具体的でわかりやすい。時々抽象度を落とすからではあると思うけど。

カントもデカルトも直観的解釈に帰しがちだったものを何で構成されているのかを分解するの、視覚科学における「デーモン」の存在は結構前から証明されていたのだなあとわかって面白いです。本書の中身はそんな内容だけでは勿論ないのですが、分析哲学・現代形而上学の先駆けやなあと思ったりしました。

 

8.「新しい働き方」の経済学: アダム・スミス国富論』を読み直す(井上義朗)

面白かったので一気に読み終わってしまいました。国富論を貧困の構造を理解するための本として読むというもの。読みやすいのでわりとおすすめである。NPOとかの福祉と産業の合間を埋めるような事業に興味ある人向けですかね。読んだことのあるもののなかでは「日本のシビック・エコノミー」と「コミュニケーションデザイン」が読書案内に入っていました。

 

9.信頼―社会的な複雑性の縮減メカニズム(ニクラス・ルーマン

信頼―社会的な複雑性の縮減メカニズム

信頼―社会的な複雑性の縮減メカニズム

 

システム理論、システム理論入門(講義録)と読んでこれにきたけど、構造主義にもシンボリックにも馴染めない人にはこれを勧めたい気がする。結構面白いし今だからこそ読める(リスク社会の考え方とか)節がたくさんあります。特にマスコミュニケーションと個人の関係について論じている項では現在浮かび上がっている問題も多くみられますし、「メディア論」とか「孤独な群衆」「反知性主義」などではとらえられてこなかった関係性への価値の賦与が描写されているので、参考書としてよいかなと思います。

 

10.都市のドラマトゥルギー 東京・盛り場の社会史(吉見俊哉

都市のドラマトゥルギー―東京・盛り場の社会史

都市のドラマトゥルギー―東京・盛り場の社会史

 

予想通り「京都と近代」の東京バージョンみたいな本だった。1年近く前に人に教えてもらって、読みたいと思っていたのだ。「戦後東京と闇市」を読んだときにも東京という町の面白さを感じたものだけれども、本書では浅草と銀座を照らし合わせながら明治初期~昭和半ばまでの「まちの毛色」について土地の歴史とともに描きます。京都と近代のような建築・都市計画メインというよりは人間の文化がメインです。