毒素感傷文

院生生活とか、読書の感想とかその他とか

100冊読破 4周目(81-90)

1.教養としての経済学(一橋大学経済学部) 

教養としての経済学 -- 生き抜く力を培うために

教養としての経済学 -- 生き抜く力を培うために

 

 

いい本です 専門的内容ながら門戸は広く開けており、考え方は示すし具体例もあるが前提に専門知識をさほど必要とはしない。章立てごとに、もっと情報を必要とする読者のために紹介もしてある。やや説教くさいのさえも愛嬌かなと思うくらい筆頭著者の語り口がよい。

財政、ミクロ経済学(+マイクロファイナンス)、マクロ経済学国債取引から学力や貧困・医療と経済学の関連、貨幣取引などなど実が詰まっています…手元にあってもまったく損しない本だと思います。

 

2.視覚科学(横澤一彦)

視覚科学

視覚科学

 

10月に受けた面接授業のときにオススメされたものです(講師をしてくださった先生の昔のボスらしい)序盤が視覚に影響する物理の説明からなのでつらくてなかなか読み進められなかったのですが、中盤からは神経科学認知心理学における錯覚の話がメインで最後は高次脳機能の話なのでむしろ後ろにいくほうが自分の専門に近く、わかりやすかったです

 

3.モラル・エコノミー(サミュエル・ボウルズ)

モラル・エコノミー:インセンティブか善き市民か

モラル・エコノミー:インセンティブか善き市民か

 

 一般市民の公共への支出のインセンティブとモラル(道徳)の関係について論じた本です 経済学の本はなんというか方向性が色々あって面白いですな。こういう本あまり読まないですが、今までに行動経済学厚生経済学の本を読んできたのでちょうどあいだにあたるような本だったかなと思います。

ミクロな経済、マイクロファイナンスを考えるにあたり社会正義的なものだけでは人を動かす(お金の面でも行動の面でも)にはあまりにも動機がないので、インセンティブについて考えようと思っていたのですが、道徳とインセンティブの関係が思ったより複雑でまだ消化不良です…あとは国や都市にもともと備わった税制や市民同士の信頼のメカニズムも結果に関与しているので、当然地域ごとに結果も出ます これを理解しない限り介入というものは上手くいかんのであろうと思うとまだ公共政策に関してはかなりの知識不足が感じられます(しょんぼり

 

4.リーダーシップの探求:変化をもたらす理論と実践(スーザン・コミベズ他)

 

リーダーシップの探求:変化をもたらす理論と実践

リーダーシップの探求:変化をもたらす理論と実践

  • 作者: スーザン・R・コミベズ,ナンス・ルーカス,ティモシー・R・マクマホン,日向野幹也
  • 出版社/メーカー: 早稲田大学出版部
  • 発売日: 2017/08/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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いや…悪くないんですよ。大学生とかで、自律した組織の運営携わるのがはじめての人なんかはこれいいと思うんですよ。でもわたしはロビンスの組織行動のマネジメントとかハッチの組織論のほうがずっと好きですね。なんというかままごとくさいんですよこの本。真面目だからこそ恥ずかしい。

 

5.ポスト・キャピタリズム(ポール・メイソン)

ポストキャピタリズム

ポストキャピタリズム

 

もうちょっとちゃんと読むべきかと思うくらいいい本だった いやあなんかこういうのあれだ、『なめらかな社会とその敵』以降久々なんじゃないか。貧困の社会学とか厚生経済学のあたりでは一部ふれてきたことかもしれないが。

コンドラチェフの波、ハイエク自由主義エンゲルスの書き記したもの、マルクスがなぜヘーゲルから多く学んだか、あたりをベースにもう少し知識が深まらないとこの本美味しく読めない気がするのだがまあそれはともかく面白かった。

メガシティを読んでいても思ったしケヴィン・ケリーの「〈インターネット〉の次に来るもの」、リチャード&ダニエル・サスカインド「プロフェッショナルの未来」あたりでも思ったことですが情報技術の発達と教育の無償化と労働力の国家を超えた移動あたりでだいたい全部繋がるんですよね

国家の債務の解消についてはだいぶ思うところある。公衆衛生の向上のために薬価が崩壊することに関しても。医療福祉関係のサービス業というのは基本的に国家にとって負担以外のなにものでもないのでそのあたりの解消って具体的にどうなっているのか全然知らないなって思った(現状は全然解消されてない

 

6.よくわかる都市社会学(中筋直哉) 

よくわかる都市社会学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

よくわかる都市社会学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

 

来期できたら「移動と定住の社会学」「都市と地域の社会学」をとろうと思っているので前哨戦として読んでみたのですがふつうに今まで読んで来た本の総まとめ的側面と、都市を構成する要素ってこんなあってんな、まあそらせやなという新鮮な驚きとがちょうどいい配分であった 教科書的一冊です。

都市の水路とか税制とか歴史を、最初は都市ごとに、次は要素ごとに分類する。さくっと読めてよい。

 

7.人生の調律師たちーー動的ドラマトゥルギーの展開(藤川信夫)

 

人生の調律師たち――動的ドラマトゥルギーの展開

人生の調律師たち――動的ドラマトゥルギーの展開

 

阪大ゼミで行われたの対人援助職を対象とする質的分析を書籍にまとめたものです。対人支援における舞台役割のまっとう、みたいな感じですね。それも対人支援職そのものに焦点をあてるというよりかはそこに起こる現象、つまり対人支援の援助や教育の力学といった感じです。特別支援のくだりはかなり面白かった

ドラマトゥルギー自体はアーヴィング・ゴッフマンが述べている概念かと思うんですが2章でピエール・ブルデュー社会関係資本ないし文化資本の概念へと転化されており、今まで格差社会スティグマという視点でしか見られなかったこの2名の理論が生きているのを見るのがよかったです

 

8.ダメな統計学:悲惨なほど完全なる手引書(アレックス・ラインハート)

ダメな統計学: 悲惨なほど完全なる手引書

ダメな統計学: 悲惨なほど完全なる手引書

 

心理統計で躓いたのでぱらっと再読。「データを拷問する」とかパワーワードが出てきて毎回笑ってしまう。心理研究法とか社会調査系の本でもよくでてくることなんですが、倫理的な問題についても触れられているので統計やってて「これでなにがわかるんだっけ…」となったら読んでもいいのかもしれない

あと医療統計は基本的に頻度主義なのでそのあたりも考えることはある。

 

9.よくわかる心理統計(山田剛史他)

よくわかる心理統計 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

よくわかる心理統計 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

 

こっちはむしろイマイチまだ処遇に難渋している本。放送大の心理統計は全部手法がベイズなので、もともと自分が学んだ統計って心理統計でどう使われてるんやというのを結びつける本ではあります。易しい…かもしれないけどこれ1冊で統計に挑むのはやはり無謀。

 

10.応用哲学を学ぶ人のために(戸田山和久他) 

応用哲学を学ぶ人のために

応用哲学を学ぶ人のために

 

哲学を知ることは、思考のツールを手に入れることである。序論にそう書かれていたのですが、その通り現代の問題と向き合うための本です。「いま、世界の哲学者が考えていること」より少しお堅いですが、現代を哲学するのに適した本でした。

応用哲学と書かれると難しそうに思いますが、多分ふつうの哲学の入門書一般よりずっと読みやすいと思います。