毒素感傷文

どうしようもなく感銘を受けてしまう日々のあれこれについて。

100冊読破 3周目(31-40)

1.日本のメリトクラシー 増補版: 構造と心性(竹内洋

日本のメリトクラシー 増補版: 構造と心性
 

日本の学歴社会についての構造の解析。随分真面目な本(というか学位論文らしい)なのだけど、よく話題になっていることについての議論なので大変面白く感じられつい読み切ってしまった。『差異と欲望』を読んだときには非-数値化された教養の構造についてだったものが、明文化されている。職歴や会社内での階級・昇進速度などなどの図示のほか、『職業』ではなく『職場』の選択志向性などといったことも最後の方には話題になっていて、ああ確かにいまはそういう時代であるなあと思ったりした。1995年の増補版なのだけど今だからこそ読みたくもある。

 

2.「原因と結果」の経済学―データから真実を見抜く思考法(中室牧子)

「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法

「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法

 

統計疎いので専門用語が出てくると参ってしまうことが多かったのだけど、こうやって例を出しつつ説明されると興味をもててよいです ただ統計の方法や手続きとかを『解説』したものであって自分で組み立てられるようになるかというとまた別問題なので、これを元手に勉強に興味もってね!という感じの本。

アンガス・ディートンの『大脱出―健康・お金・格差の起源』とかアンソニーアトキンソン『21世紀の不平等』とか、『差異と欲望』とかを読めるのであれば必ずしも必要ではないと思います。話題が直近のニュースであるのと、ダイヤモンド社なので言葉が平易なのが魅力です。どちらかといえば、『このデータでは何ができないか』というのの参考になるかなという気がします。次は「やさしい統計」か「ダメな統計学」を是非読みたい。

 

3.ツチヤ教授の哲学講義(土屋賢二

ツチヤ教授の哲学講義

ツチヤ教授の哲学講義

 

哲学が対象とする問いについての概説。用語の解説とかは少なくて、むしろ哲学がたてる問いがなんであるのか、っていう感じです 秀逸なタイトルだったなあと思うのが「哲学は何でないか」っていうの。章のタイトルなんですけどね。

哲学の本をあれこれ読んでからこれに戻ると、けっこうおもしろいです。

 

4.〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則(ケヴィン・ケリー)

〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則

〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則

 

めっちゃ面白かった。経済学的でも技術優先的でもなく、倫理でもなく芸術でもない。現状の記載がこんなにわくわくすることってあまりない。ぜひおすすめ10冊にいれたい。実は図書館でもいっときおすすめ本の筆頭に挙がっていた。『いま、世界の哲学者が考えていること』のうちのITとかバイオテクノロジーに焦点をあてた感じに近い。そしてなにより結語がよかった。結構この本おかたいところもあるんだが、遊び心もふんだんにある。ゲームのリアリティの変容なんかもおもしろい。最近になってシンギュラリティという言葉がえらい一人歩きをしている感じがあるが、そもそも時代の全容を肌身で感じていれば小さな常にシンギュラリティは連続的に、また局所的に繰り返されてきている 本書はそうした見解を示すものだったので私はわりと好きになった。

 

5.ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか?(ダニエル・カーネマン)

ファスト&スロー (下)

ファスト&スロー (下)

 

上巻を読んでの続きなんですが相変わらず面白かったです。アンガス・ディートンの貧困の経済学にも触れつつ、幸福(効用)についての意志決定をいろいろと。エコン(常に合理的決定を下す存在)でない我々が面白いのは、直観的な選択それそのものを楽しめるということだと思う。間違うということがわかっていればそれでいい。

経済学における意思決定というのはつくづく結構まじめに(不真面目な社会学なんかよりはずっと真面目に)人間の幸福を前提の目標としているのだなあということ。「死にゆく患者と、どう話すか」を読むともっとそう思います。意思決定をすることは難しい。統計的な、あるいは数学的な正しさと、実体験は違う。実体験のなかにも、満足のいくものと、苦痛を伴って耐えられないものがある。「数学的に正しい選択」をして、自分が納得できるかどうかはやはり別なのだろうとも思う。

 

6.死にゆく患者と、どう話すか(國頭英夫)

死にゆく患者(ひと)と、どう話すか

死にゆく患者(ひと)と、どう話すか

 

看護大学のコミュニケーションのゼミで行われた講義録。

ふつうに一般人が読んでも面白いと思ったので、100冊読破に入れてしまいました。学生らは高校を出て1年目の大学1回生。でも、先生に引きずられて気づけば思いもよらない問いをたて、それに仮説まで与することができるようになっている。

『場の倫理』といってもいいかもしれません。肉体と向き合って、生命そのものの時間を前にして、自分たちはどういう態度をとるのか?何を相手から引き出すのか。そういう考えで楽しめます。

 

7.思考の技法-直観ポンプと77の思考術(ダニエル・C・デネット

思考の技法 -直観ポンプと77の思考術-

思考の技法 -直観ポンプと77の思考術-

 

 図書館で見つけたのであーデネット!と思い手に取ったのですが大変よかった これそのものは結構難しいので、『いま、世界の哲学者が考えていること』の思考内容を開陳したバージョンと捉えてもいいです。答えだけが知りたければ、各章の最後の要約だけを読んでもいいと思う。

『解明される意識』はまだ読んでいなくて、デネット氏本人の著作は『解明される宗教』しか読んだことがなかったのですが、邦訳になっていても実に活き活きとした語り口と鮮やかな切り口でなんというか読んでいて楽しい本です ゲームのような本です

認識(情報処理)/意識(現象の行為主体であること)/自由意志についてあたりが面白かったなあと思います。プログラミングに関する話も言語処理に関する話も出てくるあたりが、ウワーこのひとの本読んでヨカッタナーという感想しかでてこなくなる。無能。

私がデネット氏のこととても好きなのは、宗教にしろ情報システムにしろ進化生物学にしろ、「なにかをナンセンスだと腐すことには意味がない」という首尾一貫した主張があるところです 暫定的な解法はあくまで暫定でしかないことも、答えが出るのであれば手法は問わないことも徹底している。

 

8.生命科学の歴史―イデオロギーと合理性(ジョルジュ・カンギレム)

生命科学の歴史―イデオロギーと合理性 (叢書・ウニベルシタス)

生命科学の歴史―イデオロギーと合理性 (叢書・ウニベルシタス)

 

 病の皇帝とは違って物語化していないし、すべての科学を扱うのでふつうにニュートンとか出てくるのであるがこう…なんだろう、本文中にもあったけど『イデオロギーとは事実そのものではなく発見された事実をやぶにらみするもの』っていうのよくわかる。モナドが実在したように、organ(器官)が今も生理学で使われるように、なんというかそういう概念の取り扱いが先立って実証されるというのは毎度繰り返されているから、四体液説とかも概念上不思議なものでもないんだよなあ。否定はされているし科学でもないのだが。

はじめて専門的な勉強をしはじめたころを思い出した。解剖みたいにあければわかるものはともかく、ホルモンの測定とか、実際の血流だとか、測定が難しいものの計測やらそれの治療法、どういう風に編み出したんかね、とよく思っていた。マジャンディ孔は脳脊髄液の流れ口として今も名前にある。

歴史を繙くと、今のような似非科学疑似科学?)のようなものは生まれようがないのですが、複数のイデオロギーの対立を目にしてこなかった個体が情報の取り扱いに難渋している結果といえるのかもしれない。ごく最近になるまで最大の敵はがんでも生活習慣病でもなく感染症だったのにね(今もだけど

 

9.貧困と闘う知――教育、医療、金融、ガバナンス(エステル・デュフロ)

貧困と闘う知――教育、医療、金融、ガバナンス

貧困と闘う知――教育、医療、金融、ガバナンス

 

ファイナンスの章が簡潔で理論的に書かれているのに難しく感じるあたり、やはり自分は金融・投資関係にほんとうに疎いなとおもう

いくつか本を読んで思ったけど、最貧困(絶対的貧困)に対する支援と相対的貧困(『卓越性』の逆に相当する)に対する支援はまったく別のものだということがわかる。日本では相対的貧困に目が行きがちだけど、相対的貧困も下層は絶対的貧困に転がり落ちていく。この本がすごいところは理論ではなくて実験結果であるということ。仮説とそれに対する実証を社会実験に落とし込むことはお金も時間もかかるし結果も出しにくい。とくに所謂貧困国における実験って相当大変だったのではないだろうか。

あと貧困そのものについて考える力を貧者に返す、っていうのは確かアマルティア・センがいっていたエンパワメントだったかなあと思うんですけどそれそのものも貧困国においてはトップダウンではなく(官僚が私腹を肥やすので)NGOによってもたらされることが多いっていうの、さもありなんだった

貧者に対する保険・融資に関する話は正直自分にはちょっと難しいのだけど(福祉でなくてなぜ融資の緩和でないといけないのだろう?)、それこそ福祉で補ってしまうと財源がないのと自律性を損なうのかもしれない。自律性を養うのは容易いことではないけども。

 

10.ポストヒューマン・エシックス序説: サイバー・カルチャーの身体を問う(根村直美

これなあなんというかアンケート形式の悪さは結構前面に出ていた気がするけど、MMORPG長くやってた人間としてはすごく面白い話題だったんだ。

ゲームとの身体性の乖離、SNSにおけるコミュニケーションのありかた、いくつかのキャラクターを自分が「演じる」ことについての哲学。いいぞもっとやれという感じ。