毒素感傷文

どうしようもなく感銘を受けてしまう日々のあれこれについて。

100冊読破 3周目(21-30)

1.差異と欲望―ブルデューディスタンクシオン』を読む(石井洋二郎

差異と欲望―ブルデュー『ディスタンクシオン』を読む

差異と欲望―ブルデュー『ディスタンクシオン』を読む

 

 彼らは必要性の要請によって自分が受け入れざるをえないものを『好んで』受け入れるのであって、手の届かない財に対しては『これは私たち用のものじゃない』といった言い方で、はじめから趣味の対象から除外してしまうのである。ー差異と欲望 ブルデューディスタンクシオン』を読む より

ブルデューディスタンクシオンそのものを読んでいなかったのだが、明らかに本書が原著を忠実に読み解いたひとのものであることがよく伝わってくる良書であったとおもう 例においても日本における具体的なものを挙げてくれていたので非常にわかりやすい。ディスタンクシオンそのものは『卓越性』と訳されていたが、これは本書の発刊からさらに20年以上を経て世相がやや変化している今、さらに面白く読めるのではないかなあと思う。一億総中流から一億総下流と言われて久しい(か?)し、文化資本を希求する所以がよく著されている。

私自身の話をしていいならば、この『プチブル』層において異様な雰囲気をたまに感じていた。いや、かつて田舎の学校にいたころは完全なる文化資本の困窮に辟易してはいたけれども、こうしていま街に出てくるとわざわざ後付けの文化資本を子に課す親の多さに驚いたのだ。ツイートなんかでもよくみるけれど、自身は本を読まぬのに子に本を読ませる(勿論どんな本がよいのかもわからないから人に訊く)、子に所謂高尚な習い事を高い金をかけて習わせる(子の身についてはいなかったりする)、学歴信仰が甚だしい、などなど。あなるほど、ハビトゥスの涵養のために四苦八苦しておるのだな、と思ったわけです。いや、貧困そのものを目の当たりにすることも多かれども、文化資本の貧困とはそういう意味だったのか、という気がした。多感な時期に同じ趣味というか指向性をもつ知己がおらず苦しかったことも思い出した。

オススメ10選にいれたい。

 

2.触れることの科学: なぜ感じるのか どう感じるのか(デイヴィッド・J.リンデン)

触れることの科学: なぜ感じるのか どう感じるのか

触れることの科学: なぜ感じるのか どう感じるのか

 

誕生日のとき、人におすすめされたので借りてきて読みました。書き方がおもしろかったです 神経科学の本なんですが皮膚知覚に関して結構面白いことが書かれていました。A線維だのC線維だのの話はわたしはちょっとしか知らんのですが、脊損患者でも迷走神経使って感覚起きることあるよ!みたいなのとか、感覚を取り扱う人間としては知っておきたいことだったので話半分に(すみません)ぱら読み。

あと、「陰部で点字は読めない」っていうくだりが爆笑でした。試したんかーい!という。

 

3.大脱出―健康、お金、格差の起原(アンガス・ディートン)

大脱出――健康、お金、格差の起原

大脱出――健康、お金、格差の起原

 

 めっちゃいい本でした! これの熱狂度というか自分の中でのオススメ度合いは、ドーキンスの『利己的な遺伝子』、シッダールタ・ムカジーの『病の皇帝』、ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』に並ぶ。

ミクロ経済学のひとなんですが、貧困の経済学というより「格差の」経済学という感じです。公衆衛生に携わる際に是非お読みいただいて損はないと思います。書き口がひじょうにわかりやすいのは著者のおかげか訳者のおかげか。医療職の方に是非手に取っていただきたい。

 

4.言語行為の現象学野家啓一

言語行為の現象学

言語行為の現象学

 

伝達的会話は、常に話者と聴者の共同作業なのであり、話者はあくまでも語る主体でありつつ、同時に語りかけられる聴者の役柄を間接的に引き受けている。さらに、対話の進行の中では、私と他者とは話者と聴者の役柄を交互に引き受けねばならない。ー野家啓一『言語行為の現象学

わたしが「対話」を重視しつつも苦手とする理由がよく書かれていて楽しかったです。

読んでるとなんというか象徴の曖昧さとかコミュニケーションの限定において言語って相当難しいんだなと思わざるを得ないしやっぱり臨床そのものが人の機微に疎い人間には難しいだろうと思えてきます。でも、技術的な体得とか知識の集積によってそれも可能やと思う。自然に行えてしまうと、表情の読み取りや違和感が言語化されることは少ないんですよ。なぜその徴候をそうだと読み取ったのか、という文脈が表にでなければそれが科学に置き換わってくれず、いつまでも綺麗事のままなのですよ。それは歯がゆいので、苦労して技術的にコミュニケーションを分解して要素の集積にすることでようやく科学への転換が可能になるんじゃないかという気がします。そしてそれを得意とするのは、『自然に』コミュニケーションをできない人のほうだという気がしてくる。

 

5.大聖堂・製鉄・水車―中世ヨーロッパのテクノロジー(ジョゼフ・ギース)

大聖堂・製鉄・水車―中世ヨーロッパのテクノロジー (講談社学術文庫)

大聖堂・製鉄・水車―中世ヨーロッパのテクノロジー (講談社学術文庫)

 

父が持っていたのをパクってしまった(わけではないのですが、面白そうだねといったら自分が読む前に貸してくれた)。中世、世界史でもパッとしないのは複雑すぎるからなんですけど、士農工商でいうところのうしろ3つについて実に充実して書かれていておもしろいです 誤った科学もまた科学の基礎にはなるし、機械のエッセンスがつまっています。

科学の揺籃の時期というのは本当に面白い。ルネサンスなんていいますが、ルネサンス"前夜"がこんなに学術的に豊かであったことを示してくれる本はあまりなかったりします。世界史の資料集ばりに楽しい。ただ、文体は結構読みにくいです。

 

6.ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか?(ダニエル・カーネマン)

ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
 

人にお勧めされて読みました。下巻が借りられずまだ上巻だけしか読めていないのですが、面白かったです。イツァーク・ギルボアの『意思決定理論入門』を、さらに平易にかつウィットに富んだ解説にしたような感じだ。著者は心理学者だが経済学のノーベル賞受賞者で、意思決定論の分野のほにゃほにゃがほにゃほにゃで受賞されたとのこと

なによりアトゥール・ガワンデやアントニー・ダマシオの名前が出てきていくつか本を具体的にあげてくれていたのが自分にはとても良かった 経済学における意思決定ってまだ自分には縁遠く感じられたりするのだが、臨床における直感の否定のくだりとか実に良かった。簡単に噛み砕いてもらった本を読んでわかった気になるのはご法度だとは思うけど、その分野へのやる気がへしょげそうなときに『おもしろそう!』っていう気持ちを思い起こさせてくれる本っていいな

 

7.イスラームから見た「世界史」(タミム・アンサーリー)

イスラームから見た「世界史」

イスラームから見た「世界史」

 

地理的な中東と、イスラム教の変遷についての本。世界史やっていると、中国またはヨーロッパ主体になりがちなのですがとくにヨーロッパ主体でやっても右のほうの土地の伸縮が気になっていた人間にはたいへん嬉しい本でした。ゲームならアサシンクリード、本なら夢枕獏の『シナン』や梨木香歩の『村田エフェンディ滞土録』、漫画なら『乙嫁物語』。そしてわたしの家にあるトルコランプ。文化にしろ建築にしろ宗教にしろ、そして現代経済にしろ、気になるものが多くてですね。特にイスラム圏といえば「祈り」の身体性や非代替性(代わりに「祈る」職業の人はいない)など、面白い文化の違いが読めます。中東諸問題なんかにも食い込む1冊。

 

8.サインシステム計画学: 公共空間と記号の体系(赤瀬達三)

サインシステム計画学: 公共空間と記号の体系

サインシステム計画学: 公共空間と記号の体系

 

記号が好きすぎるオタクなので読みました。

都市計画系とモノのデザインで大きく趨勢が異なることに違和感があったけど、案内のデザインは明らかに前者よりなのでわたしはとても好きですね。建築というより空間における認知・知覚に興味があるのでこの本は本当に読んでいて面白かったです。記号論理学とかは結構自分の中では形而上っぽくてとっつきにくかったんですが案内のデザインは形而下なので大好きです。見て歩き美しさに感嘆し、実際に導かれて次のポイントに到達するのは面白いものです。D.A.ノーマンの『誰のためのデザイン?』と同じくらいオススメですが高いのが玉に瑕

超絶コアなオススメ10選にいれたい。

 

9.21世紀の不平等(アンソニー・B・アトキンソン

21世紀の不平等

21世紀の不平等

 

例の流行ったピケティ後で結構信用できそうな本だったので読んだ マクロ経済学的な数式はほぼ省いて書かれているのだが統計はしっかり図示されていてよい。貧困の経済学に関してジョン・ロールズアマルティア・セン、ルース・リスター、セルジュ・ポーガム各1冊ずつくらいしか読んでないのでまあまあ厳しいものがあったのだけど、経済の政策的観点をよく指摘していてわからないなりに楽しく読みました

経済学の徒でなくても読めて、かつ法と経済学に近く、経済の理念とか仕組みというよりこれまでの政策により各国経済がどのように影響を受けてきたかについての検討という感じでなんというかユートピア感もディストピア感もないのが真面目なのである。貧困に関しては哲学も宗教も社会学もともすれば理想論に走りがちなのを本書は現実的な課題として(漸次的に)解決策または提案を出していたのがアホにはありがたかったです

 

10.宗教とは何か(テリー・イーグルトン)

宗教とは何か

宗教とは何か

 

「宗教とは何か」っていうより「宗教批判とは何か」・・・っていう感じの本でした。

ここまで痛烈なドーキンス批判初めて見た。ダニエル・C・デネットも『解明される宗教』で俎上にあげてはいたけど、積極的というかもはや攻撃的な無神論を他人に強要するのってほんと毒でしかない。わたしは勿論科学の徒なのでそれに従うわけやけど、別に神学というか宗教全般には別に相克するもんではないと思っている。だからデネットの論を信用するし、むしろイーグルトンのこの本は無神論者憎しで書かれすぎている感もあると認める。つまり今この時期だから読めるわけであって、数年後ないし数十年後には価値がなくなると信じたい。