1.「ものづくり」を変えるITの「ものがたり」―日本の産業、教育、医療、行政の未来を考える(廉宗淳)
「ものづくり」を変えるITの「ものがたり」―日本の産業、教育、医療、行政の未来を考える (クオン人文・社会シリーズ)
- 作者: 廉宗淳
- 出版社/メーカー: クオン
- 発売日: 2016/08/31
- メディア: 単行本
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情報系コンサルタントされていた方の本。電子カルテ導入に携わったとのことでちょい興味持って読んだんだが、面白かった。真面目でいい本でした。行政系システムの解説とかとてもよい。日本と韓国の情報系ネットワークの構築、全然手法が違うので面白いといえば面白いけど比較されすぎて鬱陶しい人もいるかもしれない。読み物にはいいです。
2.「他者」の倫理学 -レヴィナス、親鸞、そして宇野弘蔵を読む(青木孝平)
仏教は一般的な日本史で読み、哲学は現象学がヘーゲルーフッサールーメルポン&サルトルで止まっていたのでレヴィナスの概念をさっと考えるにあたってよかったのだが経済学に関してはマルクスの資本論を1巻だけ(全14冊)しか読んでないのでよくわからんとしか言いようがなかった。他者を前提として現状分析的なものを展開したいのであれば哲学ー仏教ー経済学、というよりアマルティア・センやジョン・ロールズのように貧困に関する法や経済学に依拠した方が方法論は出てきそうなものだが。著者が経済学のひとなので経済学における他者性の倫理学を宙に投げたような感じではあった。つまりこれは答えではなく、契機なんだろうという気がする
3.グローバル化進む日本企業のダイナミズム(みずほ銀行国際戦略情報部)
東南アジア各国の経済と雇用の形態とかインフラの整備率とかかなり面白い。あとは中東・アフリカ圏とか。文化を理解するに宗教と経済をなくして達成し得ないなという気がしてくる 面白い。ものを売る、資本を投下するということにおいてやはりお金が一番ものをいうというかカネや価値がいちばん国家という枠組みを軽々と超えられるのに対して、文化やインフラ・制度をいかにして乗り越えるかというのが面白く書かれている。硬めの本に見えるし実際そうだけど、読み物としても面白かったです。
4.【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ(スティーブン・ロビンス)
- 作者: スティーブン P.ロビンス,?木晴夫
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2009/12/11
- メディア: 単行本
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これ非常に面白かった。ドラッカーの『マネジメント』は経営そのものに関する話なので結構人間のダイナミズムからは遠いと感じたけれどもこれは組織における人間のふるまいそのものに着目して展開されるため終始楽しんで読める。臨床の人に是非おすすめである 経営管理とか興味なくても経営には参画しているし、感情を極力建て前だけにしたとしても建て前の感情の揺れ動きもあれば裏側の感情の揺れ動きもある。別に自分も興味があるわけではないのだが『なぜうまくいくのか/いかないのか』とかがちょっとわかる
5.心という難問 空間・身体・意味(野矢茂樹)
メルロ=ポンティの『知覚の現象学』が現象学扱いだとするならばこの本は知覚そのものを取り扱う つまり知覚という前提そのものを問い質すことからはじまる。うーんしかしこれ1冊で何かわかるかというと微妙だな。『対象・空間・身体・意味』っていう知覚の4要素はすごくいい概念、わかりやすい。現代版『知覚の現象学』かもしれない、とは思う。知覚イメージの話はベルクソンの『物質と意識』を髣髴とさせる。ただ、あえて本書を読む必要があるのは恐らく他人と自分の知覚の違いや世界の知覚の様式、物質の形質について悩んだり問題にいきあたったことがない人だ。幻覚や錯覚は知覚イメージではない、っていうくだりがすごくよかった。本人にとっては現実なの。あまりに荒唐無稽でも、無視できるようになったとしても、薬でコントロールできるようになったとしても、それは本人にとって現実の世界での出来事だと忘れちゃいけないなあとふと思い返した。
6.戦後東京と闇市:新宿・池袋・渋谷の形成過程と都市組織(石榑督和)
東京の地理に詳しくないと読めない本。お住まいの方には是非手に取っていただきたい。
都市のメタボリズムとはよくいったもので、本当に時期によって代謝するように中身がゆっくりと入れ替わる。面白いことに焼け跡の東京は、蛤御門の変の後の京都のように政治主導ではなく取引の場として何回も代謝を繰り返したことがわかる。そういうのが都市の年輪として身に刻まれているから、もともと東京に住んでいる人はあまり気負いがないのかも知れない。自分には点としての東京、それもいまの副都心しかわからないので代謝の過程を楽しむ余裕がないのかもしれない 下町としての東京にもあまり魅力は感じていないしな
自分が好きなのはマイナーチェンジを繰り返すことそのものの回数が多過ぎてまるでがん細胞のように増殖と崩壊を繰り返す化け物じみた虚構的側面であるから、こういう素顔を見ると不思議な気持ちになる。古代ローマの遺構の上に中世の建物があり、その上に近代建築があるようなものなのかも知れない
7.読書について(アルトゥール・ショーペンハウアー)
…創造的精神に導かれる者、すなわち自ら自発的に正しく考える者は、ただしき道を見出す羅針盤をもっている。だから読書は、自分の思索の泉がこんこんと湧き出てこない場合のみ行うべきで、これはきわめてすぐれた頭脳の持ち主にも、しばしば見受けられる。
考えがいま頭の中にあるということは、恋人が目の前にいるようなものだ。私たちは、この思索を忘れることなど決してない、この恋人がつれなくなることなど決してない、と考える。だが、…どんなに素晴らしい考えも、書きとめておかないと、忘れてしまい、取り返しがつかなくなる危険がある。
食事を口に運んでも、消化してはじめて栄養になるのと同じように、本を読んでも、自分の血となり肉となることができるのは、反芻し、じっくり考えたことだけだ。
終始心惹かれる文章でした。短い本ですがぎゅっと中身が詰まっているというか読む価値がある。往時の言語に関する意識やその崩壊過程に対するショーペンハウアー自信の熱意もある。
哲学の本を読んでいてわくわくすることってそう多くはないのですが、この本はわくわくします。本を読む人にほどお勧めしたいし、本を読まない人にもお勧めしたい。
8.ケアの本質―生きることの意味(ミルトン・メイヤロフ)
メイヤロフが哲学畑のひとであることを知らなかった。臨床哲学って感じの本だけど、しかし私はあまり口には合わなかった。言葉は平易で非常に読みやすい。新しい訳ではないけど十分に取り組める。看護師ではなく看護学生や福祉の学生に是非おすすめしたい。なぜ口に合わないかというと、『臨床』にいる人間にとって、特に考えずにいられない人間にとって、臨床の哲学とは常に後追いに過ぎず、臨床にある壁は臨床哲学によって解決し得ないからだ。私の問いに答えてくれる本ではなかった。臨床にすでにいる人にはもっと他におすすめできる本がある。ガワンデの『死すべき定め』、フロムの『愛するということ』など。これは学生で読んでもいいと思う。なぜそんなにメイヤロフがちやほやされるのか私にはわからん。学生の頃からメイヤロフは名前とこの本の名前だけは知っていたんだが。ケアそのものについてのこういう解釈はあまり好きじゃない。『場』のことについて述べているが、そこに具体性がないからかもしれない。ケアそのものについてもはっきりとした定義はないままに進む。臨床側から見ても哲学側から見てもこの本は不十分なように思えてしまう。いや、臨床であまり哲学に触れずにきた人にとっては勿論良書なのだろう。
9.空間 建築 身体(矢萩喜従郎)
閾が面白い。人間の触視知について、つまり視覚による先験的な触覚の知覚について。人間という個体にそれぞれの、クッションとなる領域の空間があって、それを突き破り侵入する知覚については不快を覚えるというもの。パーソナルスペースに似ている。この閾の感覚が敏感な人と鈍感な人がいる。広い人も狭い人もいる。
なるほど空間における認知とか心理学ってこういうふうにとらえることができるのかーという感じでした でも後半にいけばいくほど読むのは大変になりますな。
10.野生の思考(クロード・レヴィ=ストロース)
- 作者: クロード・レヴィ=ストロース,大橋保夫
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 1976/03/30
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ジャパリパークが流行っているので読みました。
私は、『実践』と慣習的行動の間には常に媒介項があると信じている。その媒介項が概念の図式なのであって、その操作によって、互いに独立しては存在しえない物質と形態が、構造として、すなわち経験的でかつ解明可能な存在として実現されるのである。
日本でいうと柳田國男の『遠野物語』にも似た各地各民族にわたる透徹した比較。
構造主義の祖とはいわれていますが、どちらかというと構造主義を拓いたことよりもそれによって民族間・種族間の差別感情のいっさいを排除してそれらをすべて要素化した点に功があるのだろうなあと思いました。勿論人類学も進みましたから今ではもっと発達した理論がそれぞれあるのでしょうが、それを所謂白人世界の人間がやることに意味があるのかもしれません。当時は風あたりの強かったことでしょうし。あと、最初の文が『メルロー=ポンティの思い出に』だったのでびっくりしました。そういう繋がりだったことを知らなかったもので。