毒素感傷文

どうしようもなく感銘を受けてしまう日々のあれこれについて。

春ボケ男子大学生

春の麗らかな陽気が煙って困り果てている。

 

隣に座っているのは華奢な女で、表に出る髪だけを金髪に、内側だけを暗めの茶色に染めていた。器用な美容師だ。この手法をなんというのかは知らない。女はその髪をゆるい縦巻きにして、崩したシニョンに結い上げていた。

 

京阪バスも阪急バスも、京阪・阪急各線とその近くを走る路線の主要駅を繋ぐ。結構な範囲をカバーしているので、高校に通い始めたころから世話になっていた。そして僕はいま、とある駅で、隣に座ってバスを待つ女について考えている。

 

彼女は化粧っ気こそないものの、薄化粧でもそれとわかるくっきりとした目鼻立ちである。シンプルな薄手のニット。牛革を紐にして大きなリングを胸元にひとつぶら下げている。年のころは・・・30手前くらいだろうか。こじらせたオーガニック女子とやらに見えなくもない。足元はそれなりに値の張りそうな、そして手入れの行き届いた革のショートブーツ。目深に帽子を被っていて表情までは窺えない。

 

妄想は自由だ。

僕はまず彼女を遊びの過ぎる派手な女にしてみた。毛染めはそのままに、大胆な前下がりのショートボブに切る。襟足はゆるく内巻きにカーブさせて、細い顎を補うように。少しぽってりとした唇はあえてファンデーションとベージュのリップで隠して、ノーズシャドーをこれでもかと入れる。眉は流行りと逆行して酷薄なほどに細い月眉を。そして瞳に、春どころか冬に戻ったのではないかと錯覚させる青のシャドーと銀色のラメをあしらって。血色のよい白い頬は一度塗り隠して、むしろ血色など感じさせない造形物のごとき桜色をひと刷け。

 

それから服は・・・服は、そうだな、黒いレースで腹部の透けたマイクロミニのワンピース。程よい肉付きだし、きっと立ち姿で、膝から上の白さが露わになる。ベタだけれど織でチェックの入ったトレンチコートで腰を絞る。足先は品のよい赤のパンプスで、手にはクラッチバッグを持たせよう。サマンサタバサなんかじゃなくて、プラダの黒いやつ。

 

妄想して、僕はいったい彼女をどこの合コンに出席させる気だろうと思い至った。そもそも何故純朴そうな年上の女性の着替えをさせているんだ?

健全な男子大学生ならば裸でも想像しておけばいいんじゃないのか。

 

僕に背を向けていた頭の中の彼女が、途端にトレンチコートを脱いだ。シニョンの髪を解き、乳首に被さるか被さらないか程度の髪を背中に垂らしていて、肩甲骨ははっきりと見えない。

服を脱ぐ前にはわからなかった丸みのある肩から、すんなりと腕が伸びている。手首にこれまた華奢な腕時計をしていて、それ以外に装飾品はない。腰のあたりで皮下脂肪がぐっと増えて腰骨を覆っている。豊かな尻の丸みがそのまま太腿になる。腰から尻の張り出しはそこまで大きくない。

僕が前に回ると小ぶりなふたつの乳房が迎えてくれて、彼女は見られていることを知り両腕で胸を隠す。その腕の下には腹部の穏やかな丸みがあり、腹の陰から肉感的な足が生えていく。

 

想像の中で僕は彼女の肩に触れて、そして、気づいた。

 

 

バスが来た。現実の彼女はバスに乗る。

ぼく?ぼくは勿論見送って次のバスに乗る。今立ち上がったら変質者になるに違いない。