毒素感傷文

院生生活とか、読書の感想とかその他とか

200冊読了記

前回が終わってから、2か月と少し。気づいたら、200冊目を読み終えていた。

単純に冬の寒さが厳しく、読書以外に楽しめるものがなかったから、というのもある。

前回に書いたブログがこれ。100冊目、こんなに早くくると思っていなくて結構満を持して書いた覚えがあるけど、200冊目がこうもあっさりと終わるともう特に何も思わない。早く人にお勧め本書きたい!というそればかり。

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200冊目の志向性

この200冊は、結構はっきりと自分の傾向がでてきたように思う。

100冊読破の内容と較べてもかなりはっきりしている。読み始めたときは、哲学にしろ建築にしろ「よくわからないから手あたり次第」感がとても強かった。たまたまこの本気になったから、とか、前から知っていたから、というのを。おかげで名著にもよく出会えた。

 

代わりに、200冊目はデザイン(都市空間・建築)/哲学(公共哲学・実存主義)/文化人類学社会学(貧困にまつわるものが多かった)と、かなり自分の求めているものがわかりやすかった。あと経済に関する本が出てきたのは意外だったように思う(100冊読破のあいだは、ガルブレイスの『現代経済学』くらいのものだった)。

 

300冊までのあいだに

多分有名な文学作品(国内、国外を問わず)を読み散らかしていくのだろう、という気がしています。あとSFも意外にも興味をもつようになりました。これが結構予想外だった。

100冊区切りでなくても全然いいと思うんですけど、本を読めば読むほど、掘れば掘るほど新しい自分と出会えます。ほんとうに不思議だ。

楽しみです。

100冊の中からオススメ5選/超絶コアなオススメ5選(101-200の中から)

200冊目は、指向性ある読書をしていた気もするので『万人へのおすすめ』がかなり探しにくかったです。なので、それぞれ気になるジャンルのある方は恐れ入りますが個々の書評を読んでいただきたいです。というわけで今回は5冊ずつ。

10冊分ごとの書評に加えて、「なぜ読んだか」「なぜおすすめか」「どういう条件・状況の人におすすめか」をもうちょっと加えた仕上がりにしております。

 

100冊の中からオススメ5選

1.ことり(小川洋子

ことり (朝日文庫)

ことり (朝日文庫)

 

多分自分から進んで読んだのではなくて、現代小説の趣味が似通っている父から渡されて読んだのでした。

小川洋子、代表作といえば『薬指の標本』とかでしょうか。ああいうエロティックな雰囲気はちっともなくて、どちらかというと『猫を抱いて象と泳ぐ』のような静謐でかなしみのある愛情深いおはなし。

それにしても小川洋子の文学にはよく『やまい』が出てくる気がします。疾病としての病気ではなく、文脈上、あるいは人生のうえでの『病み』みたいなものが、病気としてではなく、生活の一部として当然のように出てきて、誰もそれに対して不満をいったり、嘆きかなしんだり、怒ったり、しないのです。たとえば死にたいしてもあまりにも静謐で、彼女の卓越した死生観に思いをはせずにはいられなくなる。

長編ですが短くて、すぐに読めると思います。心が疲れたときにどうぞ。もっと苦しくなります(いい意味で)。

 

2.いま世界の哲学者が考えていること(岡本裕一郎)

いま世界の哲学者が考えていること

いま世界の哲学者が考えていること

 

カフェ併設の本屋に置いてあって少し気になっていたのですが、確か図書館のオススメ本にもなっていた気がして読みました。6章だてで、宗教やIT、環境問題などなど『哲学』というよりは倫理面の問題に肉薄します。ダイヤモンド社なので目当ては普段哲学に興味のないビジネスマンなのでしょうが、それくらいの軽い気持ちで手にとれますし、平易な文体で書かれているもののよくまとめられている良書だなあと思います。

特に『宗教』の項目でダニエル・C・デネットの『解明される意識』を出してきたところになんとなく自分は著者の本気を見ました・・・

 

3.愛するということ(エーリッヒ・フロム)

愛するということ

愛するということ

 

帯がなんだかフワフワしていますが、決してフワフワしていないことは彼の他の著作である『自由からの逃走』などをお読みいただければわかるかと思います。たまたま今回はテーマが『愛』なのでフワっとしていますが。本屋にずっと置いてあり、読みたいなあと思いながら読めていなかったので。

著者は社会学精神分析学・哲学を主に専門にしているので哲学の本を読みなれた人には平易でしょうが、おそらく少し読みづらいです。けどまあ、心惹かれる部分だけ読んでもまったく問題ないくらいの名著。これでフロムいける!と思って『自由からの逃走』読んだら間違いなく挫折すると思います。

愛するということは、なんの保証もないのに行動を起こすことであり、こちらが愛せばきっと相手の心にも愛が生まれるだろうという希望に、全面的に自分をゆだねることである。愛とは信念の行為であり、わずかな信念しかもっていない人は、わずかしか愛することかできない。ーエーリッヒ・フロム

なかなか厳しいでしょう?

 

4.自己が心にやってくる(アントニオ・R.ダマシオ)

自己が心にやってくる

自己が心にやってくる

 

認知神経科学の本です!というとめっちゃ堅苦しいですが、翻訳されている方が結構さくさく文章を平易にしてくれる人なので読みやすいです。ただ下記紹介文にもあるように、解剖生理の知識が少しないと厳しいかも知れません。あと用語はやっぱり医学系の専門用語が多少は出てきます。けどまあ、非医療職でも間違いなく楽しい。こういう本を読みながらだと最近のSFはかなり楽しく読める気がします。

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ここの8冊目に詳記あります。

 

5.ハーモニー(伊藤計劃

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

 

 <emotion></emotion>形式でつづられる文章の美しさ。

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実は自分は中高生のころこうやって手書きでhtmlを書いて遊んでいたのであの文体に抵抗は全くなかったのです。カッコ書きの中の書体も見慣れたもので、文章冒頭の宣言はウェブページの『表題』みたいなもの。あと信頼性の提示ですね。htmlは言語の中でもかなり人間に寄ってくれている言語なので書きやすいですし読むだけで意味もわかりやすいです。まあそんな与太話はともかく。

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本書は『健康(な意識)』とは何か、を問う本であったなあと思います。

虐殺器官でもたびたびいわれていた、『精神が適切にメンテナンスされる』ということへの恐怖が本書では主題にもなっていて、健康でいることが義務づけられる社会で『意識をやめる』ことについての展開がある。一気に読み切りました。

そしてこの本、おそらく病床で書かれていたものだろうと思ったのですがやはりそうで、著者ご本人が肉腫の再発のなかに残されたものだったと。

この感覚は他の職のひとと共有できるかどうかわからないのですが、自分はこういう作品を読むと、人間の尊厳というか存在のありようの豊かさに、思想と思考の自由さに頭をぶん殴られたような気になります。横たわっていても、向精神薬を飲んだとしても人間には『健康』な部分があり、それは絶対的にうつくしいのだと思わされる。

SFとしてというより、本当に作品としてうつくしかった。いやーよかった。

でも若いのでやっぱり情緒に訴えかける文章かどうかいわれると微妙です(笑)。好きだから色々言えます。

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</etml>

 

 

超絶コアなオススメ5選 

1.なめらかな社会とその敵鈴木健

なめらかな社会とその敵

なめらかな社会とその敵

 

これなんだろう。何のジャンルだろう・・・

数学者の考える社会学、みたいな感じですかね。あるいは政策論理?

読んでいてものすごく近未来感のある本でした。今はまだ実装されていませんが、多かれ少なかれ遠くない未来にこうなるような気がします。

公共性とか都市論について考え始めた当初だったので面白く読みました。

誰におすすめ?・・・誰にもちょっとおすすめはできないですね・・・面白いんですけどね。

 

2.解明される宗教 進化論的アプローチ(ダニエル・C・デネット

解明される宗教 進化論的アプローチ

解明される宗教 進化論的アプローチ

 

大本命デネットです!うえのオススメ本にも解説されている良書なのですが、如何せん取り扱いジャンルがあまりにも万人にオススメはできないので。宗教哲学の本です。

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これの6冊目で紹介しています。

 

3.暴力の人類史(スティーブン・ピンカー

衝撃を受けすぎて書いた記事がこちら。下巻の巻き上げが凄まじかった。しんどい。

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4.八本脚の蝶(二階堂奥歯

毒みたいな本でした。若くして自殺した女性編集者のブログをまとめたものです。

自殺したからこそ際立って価値があるのではないし、彼女の生き方がどうこうというつもりもない。ただ、本に埋もれるようなその25年(実際に埋もれていたのは20年くらいでしょうけれど)が、他の人の生きる知恵に代わってほしいなあとは思います。

というわけでこれを読んだ時の感想を置いておきます。

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5.ゲーデルエッシャー、バッハーあるいは不思議の環(ダグラス・R.ホフスタッター)

ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環 20周年記念版

ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環 20周年記念版

 

これはもう誰におすすめしていいやらわかりませんが美術と音楽と数学の本です。

と思いきや「ほとんど全部数学の本」です!!!つらいッ!!!私は数学が得意じゃないんだ・・・・っ!!

ここの2冊目で紹介しています。

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いやもうどうしてくれようかレベルで意味のわからない本でした。エッシャーとバッハをある程度知らなかったら詰んでいた。読め、とはいわないし決してオススメしないけど、読むというなら止めないし読んだ人とはお話ししたい。わけわかんないよね?理解できなかったといってくれ・・・

100冊読破 2周目(81-90)

1.美の歴史/2.醜の歴史(ウンベルト・エーコ)  

美の歴史

美の歴史

 

 
 

醜の歴史

醜の歴史

 

醜の歴史を先に読んでしまってものすごく食傷したことを先にお伝えしておきます…。

薔薇の名前』で有名な小説家であり、記号学の教授でもあったウンベルト・エーコの美学/反美学史。図録のような感じなので読破に入れるかはちょっと迷いますが圧倒的な情報量なので入れておきます。

 

本書はそもそも美醜において西洋的価値観を基盤にすると明言しており、それというのも他の文化を解釈するに美醜の価値観がわからんようになってしまって単に西洋からの『オリエンタリズムへの偏見あるいは羨望』が混じる可能性あるからやめとくね!っていうスタイルは好感は持てます。ただ西洋的な美醜の判断って宗教的な善悪の価値観と近代までほぼ同じなので、醜の方は読んでいてなんとなくしんどくなるのです…

 

文学作品、映像・絵画など多岐にわたって調べ尽くしたからこそ書けるものなのでしょうが、しかし観念論的転回は追っていると面白いのは面白いです。値段はもちろん高いです。

個人的には美の歴史のほうにある、『中世は暗い歴史だと思われがちだが絵画においては決してそうではなかった』みたいな記述がとても好き。優れた作品がたくさんうまれたのも中世ですから。時代の揺籃の時期はあるものです。

 

3.know(野崎まど

know (ハヤカワ文庫JA)

know (ハヤカワ文庫JA)

 

Twitterで人に勧められて読みました。突然のSFラノベ

着想は悪くないんだけど。ただ書いている本人が若く(精神的に)、メンタルの経験があまりないのだろうという印象を受けた。漫画の原作としては悪くないと思う。文章表現で知覚を扱うなら、文章力は絶対に必要。

あと単純に語彙と構想が未熟な印象を受ける。電子葉という発想や、クラス分けによる社会格差なんかは面白いけど、10年後には読めたもんじゃない気がする。アニメにできるならいいかも。

 

4.責任と判断(ハンナ・アーレント

責任と判断 (ちくま学芸文庫)

責任と判断 (ちくま学芸文庫)

 

アーレントといえば『人間の条件』『全体主義の起源』のイメージがあるけどそっちにあまり興味がなかったので『活動的生』に続いて本書を読んだ。成る程、倫理学と公共哲学について彼女は本当に感覚的に優れた問いを身の内に持っていたのだなあと思わざるを得ない。

凡庸な悪について、フランクルも似たような厳しい意見を持っていたのを思い出した。勿論振る舞いとしてはカントの定言命法的なものがすぐれているとしても、社会的生命としてどういうダイナミクスが可能かというのは往時の社会の条件に照らし合わせるとかなり難しいのだろうとも思う。

行動における思考の役割を考察する場合には、想像力が大きな役割を果たすことになります。この能力は、まだ起きていないこと、思考の中での行為を思い浮かべて、自分がそれを実行すると想像する能力です。…何よりも政治的な能力である行動の能力は、多数で多様な形態のもとにある人間のコミュニティのうちでしか、実現できないのです。ーハンナ・アーレント

 

5.意味への意志(ヴィクトール.E.フランクル

意味への意志

意味への意志

 

これはフランクルの講義録。意味への意志、ほとんど『幸福への意志』とかに似たものを感じるし、『おれは絶対的に幸福になるぞ』的なやっていきを感じる。いやまあ、意味づけってそういうものだと思っているんですよ。

 

6.偶然性・アイロニー・連帯ーリベラル・ユートピアの可能性(リチャード・ローティ) 

偶然性・アイロニー・連帯―リベラル・ユートピアの可能性

偶然性・アイロニー・連帯―リベラル・ユートピアの可能性

 

タイトル、サブタイトルともに顔が渋くなってしまうようなものではございますがいたって真面目で面白い本でした。ちょっと引用が長くなりますが、この文章が1番本質的だと思うので。

多くの人々が二つの問いー「われわれが信じ欲していることをあなたは信じ欲しますか」という問いと、「苦しいのですね」という問いーを区別することができるようになった。…こうした問いを区別することによって、公共的な問いと私的な問い、苦痛についての問いと〔個々の〕人間の生の核心についての問いを区別することが可能になり、リベラルの領域をアイロニストの領域から区別することが可能になる。そうした区別をおこなうことによって初めて、一人の人間が同時にリベラルでありかつアイロニストであることが可能になるのである。ーリチャード・ローティ

公共哲学と実存の哲学について、溝を埋めるような本でした。難しいけど、おすすめではあります。

 

7.政治の美学ー権力と表象(田中純

政治の美学―権力と表象

政治の美学―権力と表象

 

タイトルというかテーマがなかなか挑戦的だが、中身本当によかった。自分程度には到底追いつかない文化への理解というかセンスがある 本書自体はそれぞれの文化表象に宿る政治の解釈についての評論、という感じなんだけど身体性について-権力-結社-建築ときて結社の解釈難しかった…けど政治的なあれこれを理解したければ権力だけでなくて地下水脈を理解しなければいけないとは思う しかしこの本書いたひとの底力というか教養にはほんと脱帽するしかなかった他の本も是非読みたい…

途中民俗学も人類学も出てくるし遡っては紀元前から現代はデヴィッド・ボウイまで。

表象論やってる人には是非おすすめしたい

 

8.ハーモニー(伊藤計劃) 

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

 

新版じゃないのが見当たらなかった(真っ白な表紙がよかった)。

虐殺器官のアンサーブック的な位置づけかもしれんけど、個人的にはこれは虐殺器官よりずっと良作です。

感情、観念、知覚のコントロールとその公共性に訴えかける本でもあるし、自己意識を問う本でもあった。最初だけはあの書式に慣れなかったけどすぐ読めるようになりました、なにせ昔書いてましたし。

 

いやーこの本は…オススメだ…!あとで別に記事を書きたいくらい。

 

9.オープンダイアローグとは何か(斎藤環) 

オープンダイアローグとは何か

オープンダイアローグとは何か

 

フランクルの提唱しているロゴセラピーの、現代版かつ地域での実践という感じ。ありがたいのは読みやすいこと。これを医療職のひとが読んでどう思われるのかはきになるところではある。読みやすいけれど典拠もはっきり書いてあるし、検討が必要なところはそうと書いてあるしわりと良書なのかもしれない。が、英語論文読める人には不要かも

 

10.不和あるいは了解なき了解ー政治の哲学は可能か(ジャック・ランシエール) 

不和あるいは了解なき了解―政治の哲学は可能か

不和あるいは了解なき了解―政治の哲学は可能か

 

自分の中では完全に奇書の類だった…政治の美学、よりは政治寄りだけどそもそも政治とはなにか?っていう定義が結構文学寄りな気がするんですよね…あまり好きではなかった。うーむ。

 

100冊読破 2周目(71-80)

1.精神・自我・社会(G.H.ミード)

精神・自我・社会 (現代社会学大系)

精神・自我・社会 (現代社会学大系)

 

 確かに社会学として読めばめちゃくちゃ真面目ではあるが果たしてこれを社会学の本として位置付ける必要があるかどうかは疑問である。心理学の観念論的な部分も大いにあるし、何より1973年の訳なので読みにくさがある。原著は1934年。80年以上前だ。読みにくくても仕方ないかもしれない

 特に自我の部分、Iとmeの峻別についてはサルトルの『主体性とは何か?』で読むように、即自存在-対自存在として捉えた方が理解しやすいような気がする。心理学の人とかはこの本から入って広域心理学に発展するのかも知れないが、私は哲学と人類学と認知心理学から始めたので難しかった。

 

2.愛するということ(エーリッヒ・フロム)

愛するということ

愛するということ

 

こんな仕事をしているからかも知れないが、たいへんすんなりと自分のなかに落とし込むことができた 愛という手垢のついたテーマであるにも関わらずそこまでガチガチの哲学にも心理学にも依拠せずかといって根拠ない言説にもならず、強いて言えば宗教的愛に近い agapēなのにagapēでもない。

愛するということは、なんの保証もないのに行動を起こすことであり、こちらが愛せばきっと相手の心にも愛が生まれるだろうという希望に、全面的に自分をゆだねることである。愛とは信念の行為であり、わずかな信念しかもっていない人は、わずかしか愛することかできない。ーエーリッヒ・フロム

 

 3.ドラッカーの遺言(P.F.ドラッカー

ドラッカーの遺言 (講談社BIZ)

ドラッカーの遺言 (講談社BIZ)

 

あなんかビジネスパーソン向けの本を読んでしまった・・・。

彼は結構厳しい人で、経営学の中でも一本柱が通りすぎているから『経営者』でなく『経営学者』なんだろうなあという気はする。本屋で立ち読みくらいでいいけど、バイブルにはしない方がいい。でもいいことはたくさん書いてあるからエッセンスだけ盗め。

 

4.純粋理性批判イマヌエル・カント

純粋理性批判

純粋理性批判

 

 な ぜ よ ん だ

 少なくとも何事かを知っているのでなければ、思いなすことも断じて企ててはならない。ーイマヌエル・カント

 実践理性批判を読もうと思ってなぜかとなりの純粋理性批判から読んでしまいました。

超越論的理性批判、つまり直観のア・プリオリについてみたいな話から始まるのですが後半400ページくらいがほぼ自分の中でYAMIに包まれており、読んだことは読んだのですがまったくつかめたかといえばつかめていないというほうが正しいでしょう。

けどフッサールは多分この直観の間主観性について話を始めたんだろうな、となんとなく思いました。現象学の前夜。

私たちの言語はきわめて豊富であるにもかかわらず、それでも思考しようとする者が、自分の概念に精確に適合する表現を求めて困惑することは多い。そうした表現が欠けている結果その者は他者たちにも、じぶん自身に対してすら、考えを正しく理解させることができないのである。ーイマヌエル・カント

 bro,カント・・・!

 

5.おしゃれが苦手でもセンスよく見せる 最強の「服選び」(大山旬)

おしゃれが苦手でもセンスよく見せる 最強の「服選び」

おしゃれが苦手でもセンスよく見せる 最強の「服選び」

 

上記の本に疲れて読みました。メンズ向けなんですが自分が読んでも楽しかったです。ちなみにこの本、誰かの本棚で見たような気がするぞ。

 

6.世界の複数性について(デイヴィッド・ルイス)

世界の複数性について

世界の複数性について

 

アメリカの現代思想家。若くして亡くなられているのが悔やまれます。

様相実在論というのに初めて出会いましたが、現代思想の中でも論理学寄りの哲学。うーん宇宙の多次元性とかと親和性高そう、と思ったのですが数学とか天体物理とかに疎いのでまだなんとも。そういう方面に明るければものすごく面白い話なんだと思います。パラレルワールド(と表現していいものか)が理論的に存在し得るかどうかという話。メイヤスーがいっているのとはまた別かしら。

 

7.「承認」の哲学ー他者に認められるとはどういうことか(藤野寛

 『他者に認められるとは』、というより他者を認めるとはどういうことか、ということに近いな。奇しくも博愛という言葉が出てくるが、もう少しやりやすくすると『他者に対する免疫の寛容』というのが自分の中でしっくりくる説明である。読みやすいけどホネットとかアドルノとか読んでないからなあ。結構個人の実存にまつわる話が出てきて、最近の思想家の名前もぽんぽんでてくるから今後の読書の方向性について考えるために読んだといってもいいかも知れない。あくまで哲学よりなので、心理学っぽい「承認欲求~」みたいな話は出てきません

 

8.自己が心にやってくる(アントニオ・ダマシオ)

自己が心にやってくる

自己が心にやってくる

 

これは面白かったです!めっちゃおすすめ!

神経科学系の本ですが、分野横断的に考察が繰り広げられるのでとくに専門でなくても読めると思います。語彙はそんなに難しくないですが、ただ、解剖生理が頭の中にないと若干面倒かも。

医療系の人とか多少詳しく神経系統について学んだ人ならすいすい読めると思うので当方一押しでございます。スタニスラス・ドゥアンヌ『意識と脳』と併せて読んでもらいたい。哲学系からのアプローチだとどうしても神経系の解剖生理が基本的に症状や病態からの展開になりやすいので、クオリアや自然の心的状態の解説が弱いなーと思っていたので本書は自分の痒いところに手が届く本でした。

ちなみにスタニスラス・ドゥアンヌはわりと情報伝達ネットワークとして脳を扱っているのに対して本書では脳が描く心的状態をピクセルマッピングされた描画みたいなもんだとしていて、なのでスクリーンの数に応じた感情や意識しか持てないという見解なんですね。大変納得がいく。実際の説明はもっとうまい。

クオリアについては最早これは『脳が描くイメージの違い』としか言いようがないのでつまりあれか、欲しい知覚があるならそれを持っている人のイメージをたくさん仕入れてシミュレーションを繰り返しその回路を強化するしかないけど持ってないもんは仕方ないよね的解釈をしてしまったです。あと感情の反復性とか持続性については心理学でもよく取り上げられるけど、本書でもしっかり向き合っていてよかったかなあと思います

 

9.宿命を超えて、自己を超えて(V.E.フランクル

宿命を超えて、自己を超えて

宿命を超えて、自己を超えて

 

フランクル自身がかなり高齢になってからの、対談本です。対談というかインタビュー形式で話が進み、本人についての話が結構たくさんでてきます。

結構衝撃を受けたのは、ロゴセラピーの概念はもともと若いときから彼自身の中にあって、強制収容所にいたから考えたことではなかったということ(恥ずかしながら知らなかった)。フランクルに興味を持たれたら、読みやすいので一度読まれてみてもよいかもしれない。

 

10.公共哲学とはなんだろう[増補版]:民主主義と市場の新しい見方(桂木隆夫)

公共哲学とはなんだろう [増補版]: 民主主義と市場の新しい見方

公共哲学とはなんだろう [増補版]: 民主主義と市場の新しい見方

 

社会哲学についてですが、非常に読みやすくてよい本でした。

自分が今までパブリックデザインとか都市論とかというくくりで探していたものは、公共哲学と名前を変えることができるのかも知れないなーと思いました。

マイケル・サンデルなんかのように政治哲学も少しかみますし、ハンナ・アーレント/ユルゲン・ハーバーマスのように公共性の倫理についても話として出てきます。さかのぼってはヒューム、アダム・スミス、ロックもでてきますし私の好きなロールズにも触れられていて文字通り「公共哲学」という概念を俯瞰していく本。

100冊読破 2周目(61-70)

1.ソーシャルな資本主義(國領二郎

 

ソーシャルな資本主義

ソーシャルな資本主義

 

 

日経が出しそうな本。SNSとかクラウドファンディングとかマーケティングとかリスクマネジメントとか。デザイン関係はつい『モノ自体』に目がいきがちだけど今回は情報に焦点をあてたかったので借りてみた ありがちだけどしっかりしたいい本ですさっくりまとまっているし言葉や例えが平易だし。

クラウドファンディングみたいなマーケティング形態とても興味があったのですが、真面目な本の見つけ方がわからなかったので本書はわりとお勧めできるような気がします。門外漢に易しい。

 

2.ゲーデルエッシャー、バッハーあるいは不思議の環(ダグラス・R.ホフスタッター)

ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環 20周年記念版

ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環 20周年記念版

 

間違いなくこの100冊のなかでもっとも『お勧めできない』お勧め本。

数学ガール』になぞらえるならこれは『数学BBA』または『数学長老』みたいな本だった エッシャーとバッハが好きなので読めるかと思ったらエッシャーとバッハはテーゼでしかなく、基本的にはガチ数論の本だった。たまげた。ちなみに700ページある。本書を読みにくくさせているのは全編を通して貫かれる言葉遊びなんじゃないかと思う 原著もおそらくとても面白いのだろうが日本語版のため、訳者の苦労たるやいかばかりかと偲ばれる。アキレスと亀のやりとりは、『数学ガール』によく出てくる対話にちょっとイメージがにている。

ちなみに肝心の数論に関してはMUパズルは頑張ったもののpq問題で既に挫折しており高校数学すら(そもそも数IIICやってすらいない)怪しい自分には大変厳しいものがあった けど読ませる力はものすごくあって、最初の数章を超えると自分の好きな展開になっていくので加速がついた。

バッハはオルガンの名手でもあり、対位法に代表されるようなめちゃくちゃ理論的な音楽を書いていたし音楽はそもそもの成り立ちがかなり数学と近い。楽譜は言語のようだが言語というよりシンプルな楽譜は定理の組み合わせにすぎないことがわかる。バッハはオルガンの名手でもありむちゃくちゃ対位法に代表されるようなめちゃくちゃ理論的な音楽を書いていたし音楽はそもそもの成り立ちがかなり数学と近い。楽譜は言語のようだが言語というよりシンプルな楽譜は定理の組み合わせにすぎないことがわかる。そして数論はめっちゃ難しいけど、タンパク質とか遺伝コードの話が絡んでくると基礎の基礎は自分もやったのでそれなりについていける。というかタンパク質とかの3D構造ってかわいいですよね。

数論の自己増殖の話は分子生物学系の話題が出てきて面白いんだけど、神経系統の情報処理と記号論理系=人工知能に関する情報処理がここで結びつく。脳科学とかなんとか下手な本読むよりよほど面白い。

で、ことエッシャーに関しては高校の数学の先生かなんかをしていたと展示会で読んだ気がするがあの人が描く空間は数論的または構造的であると同時に知覚的、メタ認知的でもある メタ認知についての話が出たあとにエッシャーの話に戻ってきてようやく得心がいったといえばまあそうだ。数論を理解できる人はそう多くはないが、エッシャーを観たりバッハを聴いて感心する人は多いと思う それが数論の面白さといえばまあそうかもしれない。そしてこの本はほとんどの人におすすめはできないが、読むのであれば是非読んでいただきたいし理解されている方の話も聴いてみたいと思う。

 

こうやって読めない本を読むのもまた楽しいのはそれこそメタ認知的な観点からというのもあるだろう。なお本書についてざっと『これ知ってる人は有利』みたいなのは
①大学レベルの数学(幾何学、論理学、代数)
②情報処理系
③生物学または医学
音楽理論
⑤哲学
あたりがざっとあれば楽しいかと。ドーキンスの『利己的な遺伝子』も1978年にそれが書かれたというのがなかなかのもんやと思うけど、GEBに関してはまだいまみたいにAIのディープラーニングとか想像もつかない時代にそれを既に理論上で可能にした点がすごいんやろなという気はする。最後になったけど、訳者あとがきが秀逸。

 

3.笑いー喜劇的なものが指し示すものについての試論(アンリ・ベルクソン

 

遠藤氏の『情念・感情・顔』を思い出した あれの副題は『コミュニケーションのメタヒストリー』なんだけど、あれが情念すべてを含んでいたのに対してベルクソンのは喜劇をモチーフにして笑いの社会性と文脈を分析していく。『笑いは苦味を含んでいる』っていう一節がとても好きだ。

 

4.ハイエクの経済思想:自由な社会の未来像(吉野祐介) 

ハイエクの経済思想: 自由な社会の未来像

ハイエクの経済思想: 自由な社会の未来像

 

コミュニティデザインやりたければ経済学ばずして成し得ぬなと思って何気なく手に取りましたが大変よかったです 何がよかったかというと語彙が平易で、かつ自分が今までさくさくと読み進めてきた哲学を全体的な思想史としてハイエクの人となりを説明する背景に用いてくれていたこと。いやハイエク読んだことないのにハイエク読むのもどうかと思うんですけど後半のガーデナーとしての政府のくだりについては自分は諸手を挙げて賛成なので新自由主義的観点というか経済的コミューンの形成にはぜひとも加担していきたい。そして本の最後に訳者のツイッターアカウント書いてあった。若い方だ。

『隷属への道』是非読みたい。

 

5.要約 ケインズ 雇用と利子とお金の一般理論(山形浩生

要約 ケインズ 雇用と利子とお金の一般理論

要約 ケインズ 雇用と利子とお金の一般理論

 

この訳者の名前どっかで見たことあるなと思ったらスタンレー・ミルグラム『服従の心理』とニコラス・ヴェイドの『人類のやっかいな遺産』の訳者だった。ケインズ、名前だけはよく聞くしいっぺん読んでみようと思って借りてきたんだけど内容そのものは要約だしそんなにおかしなことは書いてないしなにより数式になると途端に計算がダメになる私にはこれでもハードルが高いっちゃ高かったんだけどなぜ世の(特に男の人に多いけど)人々みんな投資するのかと思って。投資に関する本は読めたの大変ありがたい。

 

一般理論、マクロ経済学のなかではいま結構見直されているようなので他の本も読んだら色々わかるんやろうか。世界恐慌を乗り越えるために雇用を論じたからには、いまみたいなマンネリ化した経済にも同じことが言えるのやろうか。

 

6.インクルーシブデザイン:社会の課題を解決する参加型デザイン(ジュリア・カセム)

インクルーシブデザイン: 社会の課題を解決する参加型デザイン

インクルーシブデザイン: 社会の課題を解決する参加型デザイン

  • 作者: ジュリアカセム,平井康之,塩瀬隆之,森下静香,水野大二郎,小島清樹,荒井利春,岡崎智美,梅田亜由美,小池禎,田邊友香,木下洋二郎,家成俊勝,桑原あきら
  • 出版社/メーカー: 学芸出版社
  • 発売日: 2014/04/01
  • メディア: 単行本
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うーん 前の『「インクルーシブデザイン」という発想』のほうがよかったかな。今回はユニバーサルデザイン寄りで、かつUI系といえばまあそうかもしれない。今回は、実際にデザインを当事者を含めてやってみたよ!という実例本。おすすめはしない。福祉環境デザインとかやるならちょっといいかも。本当は読むべき本なんだろうけど…

 

7.テキスト建築意匠(平尾和洋)

テキスト建築意匠

テキスト建築意匠

 

2章と8章がおすすめやで!と人からお勧めされていたので読んでみました。近代〜現代建築の理念、観念の移ろいと実際のデザインについて。なんかこれ1冊で普通に教科書になりそう。空間の観念については自分が今まで読んできた本総ざらえみたいなところがあって楽しかったです。

 

8.社会学の使い方(ジグムント・バウマン

社会学の使い方

社会学の使い方

 

『思考する人間はどんな批判にも怒らない……なぜなら、彼らは自分に怒りの矛先を向ける必要がない上に、それを他人に向けたいとも思わないからだ……思考していれば不幸が蔓延しているときでも幸福であり、不幸の表明という形で幸福を得るのだ』ーテオドール・W・アドルノ 

なんかちょっとタイトルと表紙に惹かれて読んだが、90歳の時に出した対談本。すごいな…。社会学そのものがあまり好きじゃないのでどんなことが書いてあるかなーと思って読んだ 政治哲学、経済学、文学、心理学などなどの統合という感じ。社会学が苦手なので読んだけど、意外とくさみのないいい本。

 

9.波状言論S改社会学・メタゲーム・自由(東浩紀

波状言論S改―社会学・メタゲーム・自由

波状言論S改―社会学・メタゲーム・自由

 

網状言論F改があまりに自分にとっていやらしさしかない本だったのでいっそこっちも読んでやると思って読んだ。嫌だったけどこれに関しては一理あるとは思えるし、読んでいてまあ納得くらいしてもいいじゃないかと思える気がした。それは多分鼎談が完全に答えを出しきらなかったからだ。

表象文化論というのが自分にはどうも苦手だ。精神分析と出会うとなお悪い。揚げ物に揚げ物を食べたみたいになる。この本は比較的根茎の部分に迫っていて、パラ読みするによかった。

 

10.新・都市論TOKYO(隈研吾) 

新・都市論TOKYO (集英社新書 426B)

新・都市論TOKYO (集英社新書 426B)

 

トーキョーとても好きな都市なので読みました。楽しかったです。でも、本質はヤン・ゲールが『人間の街』で丁寧に解説していたことの繰り返しであったりする。リアルタイムのトーキョーの知覚を言語化するには、いい本です。へたな社会学の本よりよほど社会学だと思う。

新書なのでぱらっと読めるし、東京という街や建築物が好きな人にはおすすめ。森ビルいきたい。

『都市は、迷子になって絶望しないとわからない。そうやって絶望した人間だけが、初めてその都市と裸で無防備に向き合える。その絶望から計画はスタートしなければいけないんです。』ー隈研吾

 

 

100冊読破 2周目(51-60)

1.知の生態学的転回2 技術:身体を取り囲む人工環境(村田純一)

 

 

知の生態学的転回2 技術: 身体を取り囲む人工環境

知の生態学的転回2 技術: 身体を取り囲む人工環境

 

結構デザイン系にはいい本かも知れないと思いました。空間デザインとかしはる人にはよい。身体概念を取り扱った1よりかなり読みやすいですが、はるかに知覚寄りの記述です

 

2.意識に直接与えられているものについての試論(アンリ・ベルクソン) 

有名なのは2巻の『物質と記憶』やその次の『笑い』のような気がしますが、1巻は地味ながらよかったです。そもそもベルクソンの位置付けがまだよくわかっていないのですが私の好きなドゥルーズメルロ=ポンティベルクソンについては必ず言及している(ドゥルーズに関してはベルクソンスピノザの研究してる)ので前提条件なのかなと思って読んだのですがまあまあふわっとしていて厄介です。数学の中でも特に数に関する論理、時間概念とかに多少詳しければ違うのかも知れない でも外的知覚に関してはまあそれでよくて内的動機については結構いまの認知心理学とかの先駆けみたいなところもあり面白いっちゃ面白いかな けどメルロ=ポンティのがとっつきやすいといえばそう

 

3.いま世界の哲学者が考えていること(岡本裕一郎) 

いま世界の哲学者が考えていること

いま世界の哲学者が考えていること

 

 

現代思想というより具象的哲学という感じ。

環境、IT、宗教、戦争(紛争)、バイオテクノロジー、資本主義についてのそれぞれの思想展開とこれからの展望をざっと追います。

宗教の項目で、ドーキンスに対してデネットで反論しているところに萌えました。読みやすくていい本だと思います。マイケル・サンデルとか好きならおすすめかも。

 

4.社会構成主義の理論と実践ー関係性が現実をつくる(K.J.ガーゲン)

社会構成主義の理論と実践―関係性が現実をつくる

社会構成主義の理論と実践―関係性が現実をつくる

  • 作者: K.J.ガーゲン,Kenneth J. Gergen,永田素彦,深尾誠
  • 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版
  • 発売日: 2004/06
  • メディア: 単行本
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社会不適合者なので読んでみたものの社会構成主義というか社会心理学の本であり、結構広域心理学なのに行動心理というよりナラティブ寄りのやつは苦手なので終始苦手だなあと思いながら読んだ。悪くはないだろうが私には早かった(合わなかった?)

 

5.貧困の基本形態ー社会的紐帯の社会学(セルジュ・ポーガム)

 

貧困の基本形態―社会的紐帯の社会学

貧困の基本形態―社会的紐帯の社会学

 

わりと自分にとっては新しい形の公共であり都市論であるような気がします。スティグマとしての貧困ではなく社会における要素としての貧困、捉え方は悪くはないなと思いますもうちょっとコミュニティデザインのこと考えたらこの辺にいきつきそう。

 

 

6.意思決定理論入門(イツァーク・ギルボア)

 

意思決定理論入門

意思決定理論入門

 

結構数学的な本でした。マネジメントに関するもの。モンティ・ホール問題とか出てきて面白かったです。意思決定というか制度に使えばなるほど功利主義的になるのだろうと思う ロールズの述べた限界効用の逓減とか確かに理論的ではあるけどしかしこの本一歩先を行っていた 『集団内における相関関係』がそれ。理解できたとは言わんが納得はできる。ただどこまでの範囲に適応できるのかはわからんな

 

7.貧困とはなにかー概念・言説・ポリティクス(ルース・リスター)

ロールズ読むならこういう本も読みたいなあと思って読んだ 副題の概念、言説、ポリティクスっていうのが要するに全部なんだけど網羅的で読みやすいので貧困の社会学をやりたい人におすすめの一冊であると思う

ゴッフマンの『スティグマ社会学』の実践版という感じである。好きだったのはやりくりという個人的・生活的行為を、政治的・戦略的行為に転換していくという点 私が好きなのはトップダウン方式なんだけどボトムアップのエンパワメントもやる人はすごい。

こと貧困という問題において当事者をエンパワメントするのはめちゃくちゃ難しい やっていると多分すごく骨が折れるし草臥れる それでもボトムアップでの政策的アプローチが1番直接的に本人たちに利益を還元すると思う

 

8.知の生態学的転回3 倫理:人類のアフォーダンス河野哲也

これシリーズになっていて1-3まであるんだけど、身体―技術―倫理とどんどん話が広がっていく まるで内藤廣氏の『デザイン講義』シリーズ、建築―環境―形態の転回のように。後者は真ん中がいちばんしっくりきたのだけど、前者は本書である『倫理』の号が一番よかった。身体の知覚、エンカウンターとしての身体とか他者という身体のふるまいに呼応する自分の身体って考えると環境とか構造への興味はわりと不思議ではないものになる気がする けどいまだに建築あるいは環境と自分の仕事についてのあれこれは話をまとめられそうにない

 

 9.自由からの逃走(エーリッヒ・フロム)

 

自由からの逃走 新版

自由からの逃走 新版

 

 

社会心理学から出発して個人の次元に落とし込んだような言説だった 実際に古くはルターに始まり、近くはナチズムについてまで手を入れたうえで社会的な個人についてその自由の所在と倒錯の性質を分析していくような感じ。マゾヒズム-サディズムの解説が自分には結構よかった

サディズム的人間は、かれが支配していると感じている人間だけをきわめてはっきりと『愛し』ている。ーエーリッヒ・フロム『自由からの逃走』

 

10.負ける建築(隈研吾

 

負ける建築

負ける建築

 

建築史は全然詳しくないのと観念論的なのがあまり得意ではないのでしっくりはこなかった。ただこういう本をなんとなくたくさん読むことで都市論や建築デザインの変遷を知ることができるのは結構楽しい

 

 

未完成の構造と営為―臨床の知覚から

100冊読破を進めるうち、自分が結構なキャパシティを『知覚(あるいは認知)』、と都市論・建築デザインに割いているのだなあと思ったのでここらで一考まとめておきたいなと思います。なぜ看護師である自分が建築や公共性のデザインに興味をもったか、それは日常にどのように反映されているかということについて。それから、そのふたつでどうしても拭い去れない主体的な営為の問題について。

 

 

 

臨床の知覚とはなにか―環境の理解?

私は既に患者ではなく医療者なので、そちらが主の視座になります。

1年目であった去年、入職して徐々に仕事に慣れていく中で、こと『臨床』という大枠について考えることが何度もありました。それは臨床の環境について。

 

かのナイチンゲールが原点である看護理論については人間/環境/健康/看護が主眼になって展開されますが、基礎ではあれどあれが最後ではないと自分は思っています。かといってロイ、トラベルビー、レイニンガーなどがすべての解決策かというとまったくそうでもない。ましてヘンダーソンやゴードンに関しては、完全に実務型(問題発見⇒解決型)であると言わざるを得ません。便利ですが、便利ゆえにそれだけに頼りたくなるので注意が要るなあと思わされるのです。ではそういう小さい話題を逸れて本題へ。

環境とはなにか

人的環境、物的環境、その動力学、自分たちの身体というデバイスが知覚にもたらす影響、時間軸・・・などなど。

①人的環境

臨床に来て思ったのは、人的環境に(自分が)慣れるのってとても大変だなあ、ということでした。学生実習もかなり長期にわたって行っていましたが、アウェーであるかホームであるかの違いはかなり大きいです。今から現場にいらっしゃる方にはぜひここを熱くお伝えしておきたい。

では人的環境とはなにか?平たくいえば、その「場」にいる人間のキャラクター、職種ということにでもしておきましょうか。

現場、自分のいる場所では刻一刻と状況が多変数的に変わっていきます。そのときにどの人間がどういう動きを「すべきか」はともかく、「してしまうか(パーソナリティの問題)」その時どういう振る舞いであるか、どういった結末を招くか、などは結構自分にとって重要な情報でした。

例1)緊急事態には強いが日々の仕事がちょっと杜撰

例2)残業してでもきっちり記録を書くけど、イレギュラーな事態に弱い

例3)ちょっとした報告や依頼を伝えづらい他職種(よくある)

など。勿論これだけではありませんし、自分の働きやすさと勘案してどうかということは今は問題にはしません。

自分が病棟という環境で働いていると、その時々の「スタッフの顔ぶれ(総合的な力量)」は結構見えてくるような気がします。勿論他職種も含めてです。そしてこの結果は、最終的に患者の利益に影響します。

 

②物的環境

これに関しては光・気温などでよいのですが、こと臨床においてはモノの配置が結構ものをいいます。一瞬で次の場所へ正しいものをつかんで飛んでいかなければならないし、モノの配置・建物の構造なんかはいちいち自分の行動に影響します。臨床でも口にする人は多いです。

 

③動力学(人とモノのふるまい、ダイナミクス

我々は忙しく立ち回り、動いています。人間ひとりひとりが全員そうしているので、①に従って今誰が何をしているだろう?という想像力や事実の確認はかなり訓練された気がします。というか、それができないと今私は働き続けられていないような気がします(これが認知できない人がドロップアウトしやすいな、となんとなく思います)

 

④身体というデバイスが知覚に及ぼす影響

当たり前ですが、自分たちは人間なので、自分の身体を通してしか情報を手に入れることができません。残りのことは、脳内で想像のすえに処理されています。

目の前で点滴を作っていれば清潔準備室という環境に身を置いていてその場所に最も詳しいし、ベッドサイドにいればその時間その場所には最も詳しいわけです。このあたりはあとで詳しくいきましょう。

 

⑤構造の解体と時間軸

システムのダイナミクスとしてはこれが1番臨床にいて楽しいことではないでしょうか。組織の一部として活動すること。

自分の一部を解体したり、要素化して他人の要素とすり合わせること。ここでいう他人とは、対象ではなく同業者のことです。

自己知覚が鋭くできている人間は、肉体をもって個体の区別を成して他者との境界を明白にしています。それをわざと要素にして分解する。そして他者の持ち物と馴染ませる。

そういうことの繰り返しで自分は臨床に慣れていったような気がします。勿論、他者を見ていて要素化したところで自分と持ち物が違うこともあります。というか多々あります。ので、そういうときはすんなりと諦めて、場当たり的に技術の真似をする。パターン化するので必ず持ち主本人より優れたものは出来上がらないけれど、持たないよりずっとましだ。

そうやって自分の特異性を崩していく。

 

なんで時間軸が大切になるかというと、焦るからです。焦らされるとどうしても人間、本性が出ます。そのむき出しになった本性を内省して、解き明かして、という行為を延々と繰り返す。正直しんどいしあまりやりたくはない。けれど、リアルタイムだからこそ表に露出しやすいものというのはあるんです。それ故に臨床は楽しくてとてもつらい。

 

実はここまでの記事はかなり以前に書いたもので、つまり最初と最後が全然かみ合わないんです。

こっから都市論と建築デザインにつなげるなんて到底無理でした。

というわけで、『営為』の前提としてこの記事をあげておき、あとは全部つぶやきに流そうと思います。